「見始めたら最後、面白くて最後まで一気に見てしまう」椿三十郎(1962) hjktkujさんの映画レビュー(感想・評価)
見始めたら最後、面白くて最後まで一気に見てしまう
用心棒(1961年)、椿三十郎(1962年)を一気に見た。208分が全く飽きることなくあっという間に過ぎ去った。文句なしの傑作である。日本のすべての時代劇の中でもベストの不朽の名作である。いわゆる東映の舞踊的立ち回りのチャンバラ映画に対抗してリアルさを追求した良質の時代劇である。この作品がこれ以降の時代劇に与えた影響は計り知れない。製作田中友幸・菊島隆三、脚本黒澤明・菊島隆三・小国英雄(椿三十郎のみ)、音楽佐藤勝、主演三船敏郎・仲代達矢らのチームを得て、黒澤明がいろいろな面で最も充実していたであろう時に作られたのでアイデア満載の傑作に仕上がっている。もともと、黒澤明はジョンフォードに傾倒しており、何とか西部劇的な映画をつくれないかと思索して放ったのが七人の侍(1954年)、用心棒(1961年)、椿三十郎(1962年)であった。それ故、用心棒(1961年)が、荒野の用心棒(1964年)に、さらに暗黒街映画ラストマン・スタンディング(1996年)にリメイクされたのも当然の成り行きであった。椿三十郎(1962年)はリメイクされなかったが、それ以上に、斬った時の音や、最後の、西部劇の決闘シーンを居合の決闘に翻案した決闘シーンで血潮が噴き出るシーンは内外の映画作家に強烈な影響を与えた。映画館で椿三十郎(1962年)の決闘シーンを見てショックを受けたサム・ペキンパー監督は、銃弾が当たると血が飛び散る手法を初めて採用しワイルドバンチ(1969年)という傑作をものにした。以後、ハリウッド映画では、銃弾が当たると血が飛び散る手法が普通に採用されることとなった。ただ、この三十郎、「用心棒」のやくざならまだしも「椿三十郎」では四人の若侍を助けるために罪のない侍たちを問答無用でめったやたらに斬り殺す点はどうかと思うが、所詮絵空事の時代劇なのだから批判するのは野暮というものかもしれない。この「三十郎」キャラ、時代劇においては大変魅力的な人物像であり、三船敏郎も気に入っていたのだろう、質的には黒澤明作品には及ぶべくもないが、岡本喜八監督作「座頭市と用心棒」(1970年)、稲垣浩監督作「待ち伏せ」(1970年)に続いていく。これらを含めて、「三十郎」四部作ということができる。佐藤勝の音楽も、これなしでは黒澤作品は成立しないくらいいつも素晴らしいのだが、これらの作品でも、荒野の用心棒(1964年)でセルジオ・レオーネがエンニオ・モリコーネに真似をさせたくらい画面と一体化しており快調である。60年前の作品だが、黒澤明が絶好調のときに作った作品ゆえに、今でも、見始めたら最後、面白くて最後まで一気に見てしまう、心地よい余韻の残る良質の作品である。これらを超える作品はいまだ無い。蛇足だが、監督が違うとこうも異なるものか、同じ脚本を使った森田芳光監督の椿三十郎(2007年)は見る必要のない駄作である。