ボルベール 帰郷 : 映画評論・批評
2007年6月26日更新
2007年6月30日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ、有楽座ほかにてロードショー
母の人生を見ることで味わえる、人生の豊かさと濃密な時間
いきなり、死んだ男たちの墓掃除をする女たちの姿から始まるので、ちょっと驚く。こんな大勢で墓掃除をするとは一体何事かと思う。とにかくこの映画に映されるのは、ほとんどが女たちである。数少ない男たちも町を出て行ったり、殺されたりと、世界は女たちによって堂々と動かされていくのである。だがもちろん、それだけではちょっと寂しいし、私たちだっていずれ死ぬことになるだろうと、彼女たちも思い悩んでいて、いやほんとに年老いていくのは辛いなあと、この映画を見る誰もがそう思うだろう。
そして誰もがそう思い始めたころ、主人公たちの死んだはずの母親が、登場する。彼女は幽霊なのか、現実なのか? と、いきなりサスペンス映画のような展開。しかもその謎解きが、この映画にとって大きな問題ではないことが判明していくからさらに戸惑うかもしれない。しかしそれでいいのだと、この映画は語る。その謎解きの過程で、主人公たちが母の人生を見る=体験することこそが重要なのだと。母の歴史が主人公たちの人生に重なると言ったらいいか。つまり、たったひとりで生きていくだけだったはずの自分自身の実人生が、死んだはず母親の存在によって厚みを増していく、その豊かさと濃密な時間。それを彼らは味わうのである。もちろんその物語を見る私たちも。それこそ至福の時。私たちが映画を見ることの意味は、それ以外にあるだろうか。
(樋口泰人)
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