「【”何をしたかではなく、何のためにそれをしたかが大事”明治時代の劔岳登頂を映画化したモノだと感服した作品。どのように撮影したのだろうか、と思ったシーンの数々に圧倒された山岳ヒューマンドラマでもある。】」劔岳 点の記 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”何をしたかではなく、何のためにそれをしたかが大事”明治時代の劔岳登頂を映画化したモノだと感服した作品。どのように撮影したのだろうか、と思ったシーンの数々に圧倒された山岳ヒューマンドラマでもある。】
ー 私事で恐縮であるが、学生時代から結婚し子供が出来るまで、登山にのめり込んでいた。北アルプス、南アルプス、中央アルプスの2500m級の山は全山登頂している。
但し、時期は初夏から初秋であり、手には国土地理院の2万5千分1の地図とコンパスを持ってである。(今作でも描かれている通り、4月~5月の北アルプスは、天候によっては厳しい冬に変貌する。GWに北アルプスに登った際に、何度も経験している。)
それでも、劔岳登頂時には、一週間以上のテント泊であったため、30Kを越える荷を担いでいたとはいえ、カニのタテバイとヨコバイを含め、十二分な恐怖を味わったモノである。
当時、地図を作るために地図なしで劔岳に登頂した、陸地測量部の柴崎(浅野忠信)や案内人の長次郎(香川照之)達の苦労が偲ばれる。
更に言えば、今作を制作した映画スタッフと俳優陣にも尊崇の念を抱いた作品である。ー
◆感想
・世間や愚かしき陸地測量部の上層部からのプレッシャーを感じつつ、偉業を成し遂げた陸地測量部が苦労しながらも、極地法の様に劔岳に挑み、三角点を設置する過程をCGに頼ることなく描いている事に、驚く。
・実際に映画スタッフや俳優陣達は、劔岳を含めた立山周辺で、撮影を敢行している。
・表層雪崩のシーンは、どの様に撮影したのだろう。ノブ(松田龍平)が助け出されるシーン。
ー 実際に雪崩の後に行けば分かるが、ビーコンを装着していないと雪に埋もれた者を見つける事さえ難しいのに・・。ー
・雪面を滑落するシーンや、またもノブが岩壁をから落下するシーンも、如何に撮影したのだろう・・。
・柴崎達がホワイトアウトの中、道を失ったシーンでの長次郎が一人歩んで行き、雷鳥の声で場所を確認するシーンも凄い。
ー ホワイトアウトの恐ろしさ。
地図とコンパスはあれど、周囲が雪と霧で視界0になるため、焦ってリングワンダリングに陥り、疲労凍死してしまう・・。-
・柴崎達が、長次郎が見つけた雪渓(その後、長次郎谷と命名されている。)を詰め、山頂を目前にした際に、長次郎が柴崎に道を譲るシーン。
ー あくまで、山岳ガイドに徹する長次郎の人間性が、伺える。ー
■白眉のシーン
・漸く登頂した劔岳の山頂に残されていた、修験者の錫杖。1000年以上も前に、修験者は劔岳に登っていた凄さを感じると共に、前半の修験者(夏八木勲)を描いたシーンの意味が良く分かる。
・そして、世間や陸地測量部の上層部から、批判的に見られていた(初登頂ではなかった、という理由だけで・・。)に対し、その後登頂した日本山岳会の小島(仲村トオル)達が、山頂から手旗信号で賛辞を贈るシーンは、心に響く。
<今作は、現地での撮影方法を含め困窮を極めたと思われるが、”国の為にではなく、そこで生きる民の為に”空白の地域に地図を作った男達の、崇高な姿を描いた作品である。
”仲間たち”と書かれたエンドロールも素晴らしい・・。>