「映像作家押井守・感情的場面転換という高等テクニック」スカイ・クロラ The Sky Crawlers かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
映像作家押井守・感情的場面転換という高等テクニック
森博嗣原作、押井守監督作品。
【ストーリー】
複数の民間軍事会社が戦線でしのぎを削りあう欧州戦線。
僻地の小さな基地に、新たなるパイロットが着任する。
彼の名は函南優一、戦闘機に乗って戦うために生まれた人間——キルドレ——だった。
後部の二重反転プロペラを推力として空を飛ぶプッシャ式対空戦闘機"散香"に乗り、つぎつぎと敵を落とす優一。
だが彼らの防空網に「ティーチャ」と呼ばれる、敵軍エース機が現れる。
キルドレたちをもしのぐ空中格闘技術をもつティーチャ。
同僚パイロットの湯田川も落とされた。
「ティーチャは、大人になったキルドレなんだ」
嘘か誠か、ティーチャには多くのウワサが飛び交っていた。
かつて森博嗣が押井守作品『アヴァロン』を褒めたことから、監督が嗚呼ありがたやとオファーに応じたとどっかで読みました。
元名古屋大学助教授の森博嗣が、趣味のラジコン飛行機で作った機体に動きを再現させて書いた原作シリーズの『スカイ・クロラ』『ナ・バ・テア』の二冊を元に作られてます。
原作挿絵は知る人ぞ知る鶴田謙二。そうあの『チャイナさんの憂鬱』を描いた鶴謙です。
ちなみにスカイ・クロラは"Sky Crawlers"、ナ・バ・テアは"None But Air"のカタカナ表記。
作中の専門用語も語尾に長音を使わないあたり、小癪にオシャレな感じです。
自分は押井守も森博嗣も過去にさかのぼって網羅するぐらいにはファンなので、ついでに鶴謙のマンガ本集めるぐらいには好きなので、そら見に行きますわな。
で、
「あ、こっちの押井守か」
となりますわな。
こっちっていうと「天使の卵」や「人狼 JIN-ROH」の方。
まあ早い話が、悲劇的結末にいたる物語なのです。
森博嗣という作家は、そのキャリアからわかるとおりの理系で、自分の感情や気持ちにすごく真摯でナイーブな反面、社会の構造や他人の心に無頓着な性質が、この作品にもそこかしこにあらわれています。
このへん押井守も似たような性分のせいか、そこがうまく働いて、設定のややこしい原作をきれいにシェイプして、非常に透明感のある作品に仕上げています。
「スカイ・クロラは唯一、自分が全てをコントロールできた作品」
と言う押井守。
見てもらいたいのは、場面転換。
多くの演出家が、ただロング撮ってそこから人物映すだけでシーン変化の説明を終えがちですが、ぼくらの押井守はそんな工夫のないことしやしません。
最初にあらかじめシーンに与えたい印象を、アングルや色調やガジェットでもって提示し、それからドラマに入るという周到なテクニックを使います。
個人的には、強い影響が見えるタルコフスキー監督よりも、そのテクニックは優れていると感じます。
自分が悲劇が苦手なのもあって、最初に見たときは正直「あちゃー、見ちゃったよこれ」という気分になりましたが、その後くり返し見る度に演出の上手さに気づいて、押井守を語る上では外せない一作だと思うようになりました。
ただ、感想は何回見てもそんなに変わらないんですけどね。
これはまあ、印象操作が上手くいっている証左でもありますが。
もひとつ、近年になって監督は
「この作品は僕の色気が入ってる」
ともおっしゃってますけど、そっちは分かんないや(笑)
つづき作るなら、キャラデザに鶴田謙二を入れてください。
そして上着はだけて上半身水着姿で整備する女の子を入れてくれたら、その意見に絶賛賛成します。