「結局、よくわかんない映画なんですけど」インランド・エンパイア こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
結局、よくわかんない映画なんですけど
事前に噂には聞いてはいたが、今回のデビッド・リンチ監督の新作がここまで難解だとは思わなかった。特に上映時間3時間の最初の1時間に映画への入口がまるで掴めず、ただ見ながら右往左往するばかりだったのには、リンチ・マニアを自認している自分自身に幻滅してしまったくらいだ。
しかし「昨日のことが明日おこる」というセリフあたりから、ようやく映画への入口を見い出すと、あとは炸裂しっぱなしのリンチ・ワールドにどっぷりと浸り、「なーんだ、そんなことか」と観客に思わせておいてからのラスト20分の凄い演出の連続を見てしまうと、難解であることすらも魅力となるリンチ演出に、私はまたしてもとり憑かれてしまった次第である。
主人公の女優が出演する映画内映画と、主人公自身の話が二重構造のようになって複雑に展開する今回のデビッド・リンチの作品に、あえて自分なりの解釈をつけるならば、「過去との決別」が大きなテーマになっていたように思う。しかしこの作品をどのように解釈し、どのように受け入れるかは、見る人それぞれの感性や人生感で変わっていいものだ。リンチの映画を偏った視点で見てはいけない、のは、これまでのリンチの作品を見ている人には理解できるだろう。その意味では、今回また新しいリンチ・ワールドを発見させてくれるこの作品は、リンチのファンのみならず、まだリンチの作品を見ていない方たちにも一見を勧めたい。
一見とは言ったものの、この作品の難解さは一度見ただけで理解できる程度のものではない。一度見た私も、入り込めなかった最初の1時間と、映画の中でときどき登場するウサギ人間の家族の存在の二つをまるでわからないままにしておけないので、もう一度か二度、この作品を見るつもりだ。そのときに出会えるであろう、この作品に潜む新しい見方や新しい発見が、今から楽しみである。