劇場公開日 1986年11月22日

「人生の三叉路で、ふと思い出すダチ公のこと。」ダウン・バイ・ロー きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人生の三叉路で、ふと思い出すダチ公のこと。

2023年10月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ダウン・バイ・ロー

さて、
いきなりお尋ねしますが
「スマホの【住所録】を消去すること」、
これ、あなたにも経験があるでしょう。

一時お付き合いはあったけれど、引っ越しや転勤や退職で、その相手とは別れて何となく日数も過ぎ、
「もうこの先やり取りをする事もまずないだろうな」と、その人の名前や電話番号を削除するときの あの得も言われぬ気持ち。
「えいッ」
「サヨナラ」、あるいは
「ありがとうございました」。
もしくは
「消えろ」とつぶやき、
その人を切って消去してしまう人差し指の、あの一瞬の迷いと ためらい、痛み、冷たさ、残酷さ、ね。
行為的に抹殺的な。
あなたはいつ、どんなタイミングで“そのボタン”に手を掛けておられますか?

・・・・・・・・・・・・・

ジャック、
ザック、
ボブ。
ふとしたきっかけで、人生のひと時を一緒に過ごし、そしてまたそれぞれの道を別れていった3人の男の物語。

「ダウン・バイ・ロー」とは、刑務所用語のスラングで、“自分が踏み台になって友達を助けて脱獄させる行為”から派生し、「親しい兄弟のような間柄」を指すらしいです。

同房 相憐れむ。
闖入者ボブを迎えて、それまでダンマリだった室内の雰囲気は変わっていきます。
やはり「殺し」は、仲間内でも一目置かれるんですね(笑)

OPP
「オアリンズ・パリッシュ・プリズン」は、ニューオーリンズの刑務所。
アメリカ国内でも悪名高い刑務所で、ムショ内での受刑者たちへ扱いがたいへん悪いようだ。
受刑者の所内での死亡率が高い事でも知られている。
救急搬送の救急車の出入りも多く、
またハリケーンの時には職員たちが我れ先にと職場放棄して避難してしまったので 、収監者たちは取り残されて、水没したOPPで“行方不明扱い”にされた人数のこともWikipediaには書いてあった。
ゆえに「10指に数えられる刑務所」とのこと。シンシン=シンシナティ刑務所と並んで裏社会ではその名が恐れられている闇の世界というわけ。
日本では名刑=めいけい=が特に有名ですよね。

・・・・・・・・・・・・・

とにかくイタリー男は喋る。
炭片で壁に窓を描く。
映画や母親のことを喋る。
メモ帳に記念しておくべき言葉や人物のことを大切に書いている。

3人はたまたまムショで出会い、
共に臭いメシを喰い、
トランプに興じ、
脱獄して危機を共にし、
ケンカや仲たがいもし、
そして分かれ道でそれぞれの道へとサヨナラして行った。

この「人生の縮図」を、ジム・ジャームッシュは「これ、君にもあることだろ?」と可笑しみとペーソスを込めて見せてくれている。

「スマホのアドレス帳」を眺めていると、ふと僕も、昔のダチを思い出すんだ。
20年も前の人間=1ヶ月も経たずに辞めてしまったその新人くんが、いったいどういう訳だか(!) 間違い電話の着信を残してくれてあったり、
Instagram で (とうに切れていても不思議じゃないのに)、 まだ僕のことを永く保存してくれているらしいことが判る ― そんな遠くの街の不思議なダチ公がいたり・・

白黒のスクリーンが良いんですよ。
この映画を観る人間をも、それぞれの旧知に、そしてそれぞれの過去に誘います。
簡単には切ったりできやしない記憶の中の人々。そして出会いの数々。
監督のジャームッシュは、
ふと、そうした人生の機微をイジってくれる、変わった男だ。
人間の心の隙間にカメラを当ててくれる独特のセンスの持ち主なんだ。

・ ・

2023年。今年ももうすぐ終わりです。
誰に年賀状を出し、あるいは今年から誰に年賀状を出さないことにするか・・
逡巡する季節ですね。

ましてや、僕なんかのことを「ダウン・バイ・ロー」と呼んでくれる人がいるならば。

·

きりん
こころさんのコメント
2023年12月21日

きりんさん
コメントを頂き有難うございます。
『おんなじ映画を観た友達がいる幸せ 』〜 そうですね (^^)
作品を通して語り合えるこの場もまた、いいですよね 🎞️

こころ
NOBUさんのコメント
2023年10月25日

今晩は。
 コメント有難うございます。又、お久しぶりでございます。
 今作は、ジム・ジャームッシュ監督作を観るのが”お洒落”みたいな時を経た後に大学時代に友人宅で「ストレンジャー・ザン・パラダイス」と併せて観ました。
 何だか”俺たちも、ちょっとイケてるぜ!”みたいな雰囲気もありつつ、両作とも面白く観ました。
 ジョン・ルーリー&マサカのトム・ウェイツが主役ではありましたが、今作はロベルト・ベニーニの明るい存在が強烈でしたね。
 暫く、級友達と”ユー・スクリーム!ウイ・オールスクリーム”は良くやってました。
 今でも、そんな友人達とはコロナ禍の間は会えなかったですが、一生の友人ですね。(ちなみに親友は、登山で生死を共にした男ですが・・。友人は沢山、親友は少しでも良いと思います。)
 仕事とは関係ない友人が全国に居て、頻繁に会えないまでも、年賀状の遣り取りをするのは、僕は楽しいですね。では。

NOBU