「アメコミ役者の奇術対決」プレステージ 永賀だいす樹さんの映画レビュー(感想・評価)
アメコミ役者の奇術対決
マジックの魅力は上手にだまされる楽しさだろうと思う。
観客は何とかタネを見破りたいと必死に目を凝らすものの、まんまとだまされて「すごい!」となる。
最近ではTVマジシャンがショーの後にタネあかしをして、二度目の拍手をもらうというのもよくあるようだ。
そうした奇術師の魅力が、そっくりそのまま入ったのが『プレステージ』という作品だ。
演出の才能に恵まれたアンジャーは、マジックの舞台事故(水槽を使った脱出マジック)で妻を失ってしまう。その原因を作ったのが、奇術開発に優れたボーデン。
アンジャーは復讐心から、ボーデンの舞台中に観客としてもぐりこんで手品を台無しにしてしまう。結果、ボーデンは指を失い、奇術師としてのハディキャップを背負う。
そこからは二人は奇術師としてガチンコ勝負に突入していく。
しかしながら彼らは本質的に似ている。
それぞれの最大の持ち技である瞬間移動を見破るため、スパイを送り込んだり日記を奪ったり。
卑劣な手もいとわずに相手の鼻をあかしてやろうと、あるいは自身のマジックを高みに押し上げようと画策する。
ところがなんとなく話の筋がおかしい。
タネを知っているはずのタネ仕掛け職人が「お前はもう知っている」とたしなめたり、事故に至ったロープ結びを結んだ本人が「覚えていない」と言い張ったり。
アンジャーが必死にボーデンのタネを知ろうとすればするほど謎が深まり、あせりが友人の信頼関係を失わせていく。
一方、ボーデンが得意とした人体瞬間移動をアンジャーも完成させたことから、いよいよ二人は引っ込みがつかないところまで突き進んでいく。
同時に観客も信じられない場面に遭遇する。
ありきたりのサスペンスから予想外の事態に吹き出すか憤慨するか、いずれにしても心が激しく揺さぶられるだろう。
その楽しみは鑑賞した人だけのものだ。
それにしてもXメン・シリーズのウルヴァリン、ノーラン版バットマン三部作のバットマン、それぞれにヒーローを演じているヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベールが、舞台奇術で競い合うというのもおもしろい。
ヴィランとの戦闘で衆目を集めるヒーローが、劇場で衆目を集める奇術師として対決。いずれも肉体派としてやれる実力を持っているだけに、キャスティングだけ聞くと意外な気がする。
ところが実際の作品を観れば、人生全てをつぎ込んだ狂気の奇術師による執念の戦いになっている。
また原作を読んでから鑑賞した場合、セリフの一つ一つが味わい深い。
クライマックスに向かっていく中で織り上げられていく物語が、一つの巨大な奇術に変わっていくさまを観ているようだ。
では評価。
キャスティング:8(アメコミ・ヒーローをやってる二人とは思えない奇術師戦)
ストーリー:9(単なる若手奇術師のケンカにおもえた二人の対立が、何かおかしい違和感にシフト、サスペンスを盛り上げる)
映像・演出:7(奇術のタネをそれと気付かせず映像にした妙)
タネ:4(知ったら「なーんだ」と思うかもしれない。「なんだ!」と思うかもしれない)
ロマンス:6(ポスターに出てくるイメージほど女性ネタは少ない)
というわけで総合評価は50点満点中34点。
舞台裏も含めて丸ごと見ているはずの観客もだまされる。奇術のおもしろさを映画で楽しめるという風変わりな作品。手品が好きな人にオススメ。ついでに映画自体が好きだという人にはさらにオススメ。