「素晴らしいシナリオ」プレステージ プライアさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしいシナリオ
マジシャンである主人公とそのライバル、
主人公の妻はかつてマジック中にライバルに殺された。
わざとだったかどうかは明らかにされないが、そういう因縁があった。
ライバルは陰気なところがあるが、マジックの腕は良かった。
そして新しい瞬間移動のマジックを成功させる。
タネは替え玉がいることと考えるのが一般的だが、主人公はそうでないと直感した。
その謎を暴くべく自分の恋人をライバルのもとへ送り込む。
いわゆる色仕掛けだが、この女は逆にライバルに惚れて去ってしまう。
しかし約束通りタネが書かれていると思われる日記だけは盗んでくる。
が、全てはライバルに読まれていて、そういう内容が暗号で書かれていた。
このように2人の化かし合いは続いていく。
主人公はテスラ博士(実在した人物二コラ・テスラと思われる)に依頼し、
科学の力(いわゆるテスラコイル)を使って新たな瞬間移動のマジックを完成させる。
これは世間の注目を浴びて高い評価を受ける。
ある時、主人公が瞬間移動した先が水槽の水の中で、そのまま溺死した。
トリックを暴こうと近くに潜んでいたライバルは殺人罪で逮捕・投獄される。
遺品の瞬間移動装置はある貴族が引き取ることになる。が、実はこの貴族も主人公だった!
この装置は単なる瞬間移動ではなく、コピー+瞬間移動の装置だった。
つまりワープの際にもう1人(自分のコピー)が新たに生まれ、共にワープするのだ。
水槽で溺死したのはこのコピーの方で、ライバルに濡れ衣を着せるための主人公の陰謀だった。
ライバルの死刑執行時、主人公は近くで様子を見ていた。
が、その時ライバルが別の場所から現れ、主人公を銃で撃つ。
実はライバルには兄弟がおり、常にお互いに入れ替わりながら生きていたのだ。
配偶者さえそれに気付かないくらい見事なトリックで、
主人公が彼らの瞬間移動を単なる替え玉でないと直感したのも頷ける。
結局痛み分けながら、どちらかというとライバルの勝利ということになる。
・・・ちなみに主人公が瞬間移動を成功させるたびに生まれるコピーはどうなっていたのか?
主人公が毎回射殺していたのだった。その苦悩を語り、主人公は息絶える。
が、この時死んだ主人公も実はコピーで、まだ本物は生きているのでは?
ということを匂わしながらジ・エンド。
・・・・・
全体を通じてこちらも謎解きをしているような気持ちになる映画だった。
ストーリーがよく練られており、終盤にかけてドンデン返しの連続でお見事。
また主人公とライバルの複雑な感情がよく描けていたと思う。
謎につつまれてはいるが、ライバルは決して悪い人間ではない。
普通に恋もするし、見も知らない子供のために尽力したり、
また主人公が水槽で溺死するシーンでは珍しく感情を露にし、
「死ぬな!死ぬな!」と助けようとしていた。
それでも主人公がライバルに自らかけた濡れ衣を晴らそうとしなかったのは、
妻を殺されたことへの復讐もあろうが、やはり嫉妬心があったのだろう。
技術的にはライバルの方が上で、主人公が彼のマジック解明に執着したのもこの理由から。。
法律まで犯しかねないこの狂気じみた情熱こそがこの映画の見所でもある。。
結局最後に明かされるライバルの瞬間移動のトリックだが、
「実は双子の兄弟がいました~」なんてのは、いわゆる禁じ手だとは思う。
が、映画全体を通じてその伏線は張られており、ズルいという印象は受けない。
例えば、「あなたの『愛してる』は本気の日とそうでない日がある、
、後者の日はきっとマジックの方が大事な日なのね」妻からライバルへの何気ない台詞。
ライバルが「見破らない方がいいトリックもある。放っておこう」と決意しながら、
実際には主人公の舞台裏に潜入したこと(ここで殺人の濡れ衣を着せられる)。
主人公とライバルとの会話、
「おれの妻を殺したのはわざとか?」「わからない」「何?わからないだと!」
ライバル兄弟の1人は狂気で、1人は真人間になりたかったのだろう。
またマジックを成功させるために、五体満足のくせに常に障害者を演じているマジシャンの存在。
これも、マジックのためになら生活をも犠牲にできるのがマジシャン、というヒントだった。
またテスラの瞬間移動装置がコピー機能も兼ね備えているということも、
実験段階のシーンをよく見ていれば推理することができることだった。
終わってみると、これだけ複線が張られているのに全く推理できなかった、
そういう自分に甘さを感じる。こんなに観客が推理できる映画は他になかったと思う。