劇場公開日 1976年8月7日

「硬派でクールな社会派サスペンスの傑作」大統領の陰謀 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5硬派でクールな社会派サスペンスの傑作

2025年2月24日
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鑑賞方法:その他

興奮

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難しい

1972年〜1974年に掛けて発生した“ウォーターゲート事件”を題材に、ワシントン・ポストの2人の記者が事件の真相に迫って行く過程を描く社会派ドラマ。事件を追う2人の記者に、ダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォード。監督は『パララックス・ビュー』(1974)、『ペリカン文書』(1993)のアラン・J・パクラ。脚本は『明日に向って撃て!』(1969)、『ミザリー』(1990)のウィリアム・ゴールドマン。

1972年6月17日。大統領選の最中に民主党本部への不法侵入事件が発生。実行犯として逮捕された5人の素性は、CIAの工作員だった。ワシントン・ポストの新米記者ウッドワード(ロバート・レッドフォード)は、事件に興味を持ち調査を開始。やがて、先輩記者のバーンスタイン(ダスティン・ホフマン)と協力し、彼らはホワイトハウスに繋がる陰謀を明るみにしていく。

事件を追う2人の記者や上司に至るまで、実際の人物名が用いられ、事件を追う2人の私生活や信条を語らず、あくまで彼らがどういった手段で真実を明るみにしていくかを描いており、さながらドキュメンタリーを観ているかのようだった。パソコンもスマートフォンも無い時代、電話と自らの足による地道な取材や、発言をメモして裏付けを取る姿勢、匿名を約束して事件の関係者から情報を引き出そうとする執念の取材の泥臭さが良い。

主演のダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードの演技は勿論、ワシントン・ポストの主幹ブラッドリー役のジェイソン・ロバーズも良い。最初は事件の裏付けが弱いとしながらも、終盤では「彼らを見捨てるな」と、報道の自由を胸に若い記者を信頼する姿が渋い。

カメラワークが素晴らしく、国会図書館で貸し出しカードを手作業でひたすら調べていくウッドワードとバーンスタインを真上から捉えたショットのキレが抜群。次第に高度を増し、図書館全体を見渡せるようになっていく様が、彼らの作業の途方もなさを表している。
中盤、執念の取材にも関わらず、大統領選に圧勝するニクソンの姿を映したテレビ画面と、オフィスでタイプライターを打ち続けるウッドワードの対比も良い。画面の7割を占めようかというテレビ画面と、その隅で仕事に励むウッドワード。まだこの時点では、ホワイトハウスが優勢。
しかし、ラストで事件の黒幕を世間に暴き、生命の危険すら覚悟の上で、尚も記事を書き続けるウッドワードとバーンスタインを捉えたシーンでは、テレビ画面に映る大統領就任式のニクソンの方が端に追いやられている。高らかに宣誓するニクソンの姿は、その後タイプライターの文字で語られる事件終結までの経緯を含めるとあまりにも皮肉。

“ディープ・スロート”からの警告を受けたウッドワードが、バーンスタインの自宅を訪ねた際、盗聴と監視を恐れてタイプライターで会話するシーンが印象的。彼らの記者としての戦い方を端的に表している。
そして、ラストでタイプライターの打刻によって語られる事件のその後の展開。ウッドワードとバーンスタインの勝利を告げる静かなラストが非常にクール。

ドキュメンタリーさながらの硬派でスタイリッシュなタッチによって、社会派サスペンスの名作として評価されるのも納得の一作。また、ブラッドリーをトム・ハンクスが演じた、本作の直前の事件を描いた『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2018)を見返したくなった。

緋里阿 純