レミーのおいしいレストラン : インタビュー
「レミーのおいしいレストラン」日本公開前に来日したプロデューサーのブラッド・ルイスにインタビュー。難航した製作の舞台裏やピクサー社内の様子についてなど、さまざまな話を聞かせてくれた。(編集部)
ブラッド・ルイス プロデューサー インタビュー
「何よりもストーリーテリングを重要視するのがピクサーなのです」
――本作は監督が交代したり、かなり製作が難航したと聞きましたが?
「私がこのプロジェクトに参加したのは、5年半前くらいですが、原案者のヤン(・ピンカバ)が6年前から企画を温めていました。その当時、既にピクサーは成功を収めている時期でしたが、映画を作ることは簡単なことではありません。皆さんにはピクサーが毎年毎年、作品を簡単に生み出しているように見えるかもしれませんが、1本の映画を作ることは大変困難な作業なのです。特に今回は、いろいろなテーマを含んでいる題材だったので、伝えるべきストーリーの核心を見出し、焦点をどこに当てるかということを決定づけるまでに数年かかってしまいました。そんな複雑なテーマを持った作品ですから、初めて監督をするヤンにとっては少し難しい企画だったんです。企画開発から3年半ほど経過した時点で『このままでは素晴らしい作品にはなりえないだろう』とさえ思いました。そして、製作期間が残り20カ月くらいしかないというところになり、経験豊富で素晴らしい語り手である職人として、ブラッドにお願いしたのです」
――そのブラッド・バード監督や、製作総指揮として携わったジョン・ラセターとの仕事はいかがでしたか?
「ブラッドもジョンも、この業界の中でも最も優れたストーリーテラーでありフィルムメーカーで、私も当然尊敬していますし、学ぶことも多くありました。我々はもちろん仕事に対しては真剣ですが、毎日根をつめて延々と働いているというよりも、ときどきは遊んだり、ふざけあったりもしていましたね。製作中に面白かったのは、リサーチのために監督とパリのレストランで食事をして回ったときのことです。かなりの品目があるランチを4時間ほどかけて食べ、4時半くらいにホテルに戻ったとき、満腹のブラッドは『じゃあ、また明日ね』と言ったのですが、『おいおい、これから2時間後には20品目ぐらい出てくるディナーがあるんだよ』と言ったら、彼は気絶しそうになっていましたよ(笑)」
――あなたは「アンツ」「シュレック」などで、PDI/ドリームワークスで仕事をしていたそうですが、ピクサーと他スタジオの違いはなんだと思いますか?
「単純に比較はできませんが、ピクサーの特徴は、何よりもストーリーテリングを重要視し、そのために皆が献身的であることですね。ストーリーを作る際に、仲間の意見を聞き、解析しながら発展させていくという方法を確立しています。そうした社内の批評や評価の意見をもとに、監督自身が最終的に決定していくのですが、強制的に選択を強いられるというのではなく、監督が自信をもって選択できるようになるまで、根気強く練っていくのです。今回も、ブラッドは仲間からのフィードバックを全面的に受け入れ、物語を自分のものにしていきました。ピクサーは監督への周囲の支援がとても厚く、そして成功に対する方程式というものはありません。『他と違っていいんだ』という考えのもと、監督が物語に対して自信を持てるようになるまで、周囲はときに残酷なまでに正直な意見を述べ、より良いものへと発展させていくんです」