レミーのおいしいレストラン : インタビュー
ブラッド・バード監督インタビュー
※「ブラッド・バード監督、大いに語る」から続く
――「レミーのおいしいレストラン」は、最先端のテクノロジーを駆使しながらも、ストーリー運びにじっくり時間をかけていますよね。VFXと爆発だらけの夏の大作のなかで、かなり異色ですよね。
「取材を受けるたびに、『ピクサーの成功の秘訣はなんですか?』って訊かれるんだ。で、彼らが期待している答えっていうのは、『我々には、特別なスーパーコンピューターがあって、これを使えば観客の好みを完璧に分析してくれるんですよ』っていう(笑)」
――(笑)
「でも、現実のピクサーは、みんなで会議室に集まって、『ぼくたちが観たい映画はなんだろう?』って考えるところから始まる。『どんなエモーションを伝えたいだろう?』って。でも、正直に語ったところで、あまりいい反応は得られない。目新しい答えではないし、実際、ハリウッドがその問題から必死で背を向けているくらいだからね。“観客が愛着を持つキャラクターを生み出すこと”、“面白いストーリーを生み出すこと”なんていうものは、スタジオの重役連中にとってはひどく曖昧で、しかも、映画が誕生した100年も前からずっと直面している問題だからだ。
最近の映画監督が忘れがちなのは、好奇心を煽ることによって生まれる素晴らしい効果だ。一流のストーリーテラーっていうのは、たまに素晴らしいトリックを見せるけれど、その後、そっと身を引いてみせるものなんだ。たとえば今度スピーチをするときに、両手をこうしてみてごらん(と、両手を合わせて、なにかを隠し持っているふりをする)。『やあ、みなさん。お元気ですか? え、なに? ぼくが手になにを隠しているか、って? なにもありませんよ。いやいや、本当ですって』って。なにかを持っているふりをするだけで、ぼくはその場にいる人の注意を引きつけることができる。これがストーリーテリングでは非常に大事なことなんだ。いいストーリーというのは、次がなにを待ち受けているのだろうと、観客にわくわくさせる。たとえばスピルバーグが素晴らしい映画監督であるのは、だれもが期待する瞬間をあえて焦らすことがどれほど効果的か熟知しているからだ。それは、彼の映画の予告編を観るだけでも明らかだ。『未知との遭遇』や『ジョーズ』から、『ジュラシック・パーク』に至るまで、予告編に宇宙人もサメも恐竜も映っていないよね。
でも、最近の映画監督は自信がないから、『ほら、爆発だ! 今度は出血だ! ほら、もっと大きな爆発だぞ! おおっと、デジタル兵士団の登場だ!』って、観客に休み無しに投げつけてくる。『頼む! 頼むからおれの映画を気に入ってくれ!』っていう監督の悲痛な叫びが聞こえてきそうなほどで(笑)」
――(笑)
「ぼくは映画を愛している。ストーリーテリングを愛しているし、そのプロセスのすべてを愛している。デジタル効果やスーパーコンピューターなどは関係ない。いい物語こそが映画を傑作にするんだ。映画監督に課せられた使命は、チャップリンやD・W・グリフィスの時代からなにも変わっていない。あるいは、オーソン・ウェルズやクロサワやセルジオ・レオーネのような偉大な監督の時代とも変わっていない。すべてはストーリーテリングにかかっているんだよ」
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