劇場公開日 2007年7月20日

「【81.2】ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 【81.2】ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団

2025年8月9日
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作品の完成度
本作は、シリーズで最も長い原作小説を、最短の上映時間に凝縮するという、極めて困難なタスクを見事にクリア。原作の膨大な情報を効率的に整理し、主要なプロットラインとキャラクターの感情の動きに焦点を絞った構成は、映画としてのテンポの良さと明快さをもたらす。原作ファンからは、多くのエピソードが割愛されたことへの不満も聞かれるが、映画単体としての完成度は非常に高い。特に、ハリーの孤立感と反抗心、ダンブルドア軍団の結成、ヴォルデモート卿の暗躍という、三つの重要なテーマを軸に物語を構築することで、映画的なカタルシスを創出。原作の持つ重厚なテーマを、より視覚的・感情的に訴えかける形で表現することに成功した。
しかしながら、その一方で、物語の奥行きやキャラクターの背景描写がやや浅くなってしまった側面も否めない。原作では緻密に描かれていた政治的駆け引きや、魔法省の腐敗といった要素が、映画では簡略化された印象。シリーズ全体を通して見ると、この作品は次の段階への架け橋としての役割が強く、物語の転換点としての意義は大きいものの、単体で完結した作品としての深みに若干の物足りなさも残る。アカデミー賞や主要な映画祭での受賞歴やノミネートは確認できず、批評家からの評価も賛否両論。しかし、興行成績は世界中で大成功を収め、シリーズの商業的な成功を決定づけた重要な作品であることは間違いない。
監督・演出・編集
監督デヴィッド・イェーツの手腕が光る一作。彼の演出は、シリーズに新たな息吹をもたらした。これまでの監督たちが採用してきた、ややファンタジー色の強い演出から一転、よりリアルで、重厚なトーンへとシフト。カメラワークは手持ちカメラを多用し、登場人物たちの心理的な揺れ動きをダイナミックに捉える。特に、ハリーが怒りやフラストレーションを爆発させるシーンの演出は、観客の感情を強く揺さぶる。
編集は、マイケル・ゴールデンバーグの脚本を最大限に活かし、原作の膨大な物語を2時間22分に凝縮する役割を果たした。カットのつなぎは非常にスピーディーで、物語の進行に緩急をつけることで、観客を飽きさせない。魔法省でのハリーとヴォルデモートの対決シーンは、編集とVFXが一体となり、圧倒的な迫力とスピード感を創出。原作の持つ緊迫感を、視覚的に見事に表現している。
キャスティング・役者の演技
* ダニエル・ラドクリフ(ハリー・ポッター役)
シリーズの成長とともに、ハリーの内面的な葛藤を繊細かつ力強く表現。思春期特有の反抗心と、親しい人を失った悲しみ、そしてヴォルデモート卿の精神的な影響に苦しむ姿を、これまで以上に深く掘り下げた演技。特に、精神的な苦痛から来る怒りの爆発や、孤立感を表現する表情の変化は圧巻。ヴォルデモートに憑依されるシーンでは、苦悶に満ちた叫び声と、邪悪な笑みを浮かべる対照的な演技で、ハリーの精神的な不安定さを完璧に演じきった。子役から脱却し、本格的な俳優としての才能を開花させた、彼にとってのターニングポイントとなる作品。
* ルパート・グリント(ロン・ウィーズリー役)
ロンの持つユーモアと、ハリーへの変わらぬ友情を自然体で演じ切った。ハリーが孤立していく中で、ロンが唯一の理解者として、支えになろうとする姿を、真摯に表現。ダンブルドア軍団でのリーダーシップを発揮しようとするも、どこか不器用な様子も、ロンというキャラクターの魅力を引き立てている。
* エマ・ワトソン(ハーマイオニー・グレンジャー役)
ハーマイオニーの知性と、ハリーの苦悩を深く理解し、支えようとする優しさを丁寧に演じた。ダンブルドア軍団の結成を主導し、持ち前のリーダーシップを発揮する姿は、原作のハーマイオニー像を忠実に再現。ハリーとの友情を、時に厳しい言葉をかけながらも、常に寄り添う姿勢を、説得力を持って表現。
* ゲイリー・オールドマン(シリウス・ブラック役)
ハリーにとって唯一の肉親と言える存在として、愛情深くも孤独を抱えるシリウスの複雑な心境を表現。原作における彼の閉塞感や無力感を、オールドマンは抑えた演技と憂いを帯びた表情で見事に体現。特に、ハリーへの温かい眼差しと、逃亡生活による苛立ちの狭間で揺れる演技は、観客に深い共感と悲哀をもたらした。ハリーを守ろうとする強い意志と、やがて訪れる悲劇を予感させる、圧倒的な存在感。
* イメルダ・スタウントン(ドローレス・アンブリッジ役)
アンブリッジの偽善的な残虐性を、完璧な演技で具現化した。ピンクの服をまとい、甘い声で話しながらも、生徒たちを厳しく罰する姿は、シリーズの中でも特に異質な恐怖を観客に植え付けた。スタウントンは、一見すると愛らしい教師の仮面を被りつつ、その奥に潜む権力への執着と冷酷さを、巧みに演じ分けた。彼女の演技は、官僚主義の闇を象徴する存在として、作品のテーマ性をより強く打ち出した。
* マイケル・ガンボン(アルバス・ダンブルドア役)
ダンブルドアの新たな側面を力強く表現。穏やかな賢者としての顔だけでなく、ハリーを危険から遠ざけるために、あえて距離を置く苦悩や葛藤を見せた。ヴォルデモートとの最終決戦では、ハリーを守るために自身の全てをかけて戦う姿を、圧倒的な迫力で演じきった。ガンボンの演技は、ダンブルドアを単なる善の象徴ではなく、感情を持つ一人の人間として描き出し、物語の重厚感を一層深めた。
* レイフ・ファインズ(ヴォルデモート卿役)
クレジットの最後に名前が出る有名俳優として、圧倒的な存在感を発揮。ヴォルデモート卿の冷酷さ、そしてハリーへの憎悪と執着を、わずかな登場シーンで強烈に印象付けた。特に、魔法省でのハリーとの対決シーンでは、恐ろしさと同時に、ある種の悲哀すら感じさせる演技で、キャラクターの深みを増した。
脚本・ストーリー
原作の膨大な情報を取捨選択し、映画的な物語構造に再構築したマイケル・ゴールデンバーグの脚本は、高く評価すべき点。ハリーの内面的な成長と、周囲との関係性の変化に焦点を絞ることで、シリーズのダークな側面を強調。ホグワーツでのダンブルドア軍団の結成や、魔法省での最終決戦など、原作のクライマックスを効果的に配置し、物語の盛り上がりを創出。しかし、原作の持つ重層的なテーマや、多くのサイドストーリーが省略されたことで、物語の複雑さが失われたという意見も。
映像・美術・衣装
デビッド・イェーツ監督のリアリズム志向が、映像面にも強く反映。これまでの作品に見られた、幻想的な色彩は影を潜め、全体的に暗く、くすんだトーンで統一。ホグワーツ城の内部も、より現実的な質感で描かれ、閉塞感や不穏な空気を演出。美術は、ホグワーツの教室や魔法省の壮大なセットが印象的。特に、魔法省のセットは、その巨大さと、ディストピア的なデザインが、権力と官僚主義の象徴として機能。衣装は、登場人物の成長と、物語の暗さを反映し、より洗練された、シックなデザインへと変化。ドロレス・アンブリッジ教授のピンクの衣装は、その可愛らしさと、彼女の残忍な性格とのギャップを際立たせる、象徴的なデザイン。
音楽
ニコラス・フーパーが新たに作曲を担当。これまでのジョン・ウィリアムズによる荘厳なスコアとは異なり、より現代的で、エモーショナルなサウンドが特徴。特に、ハリーの苦悩や、ダンブルドア軍団の結束を表現するメロディーは、物語の感情的な起伏を効果的にサポート。主題歌はなく、劇伴のみで構成されている。
作品 Harry Potter and the Order of the Phoenix
監督 デヴィッド・イェーツ 113.5×0.715 81.2
編集
主演 ダニエル・ラドクリフB8×3
助演 マイケル・ガンボン B8
脚本・ストーリー 脚本
マイケル・ゴールデンバーグ
原作
J・K・ローリング B+7.5×7
撮影・映像 スワボミール・イジャック
S10
美術・衣装 美術
スチュアート・クレイグ
衣装
ジェイニー・ティーマイム S10
音楽 音楽
ニコラス・フーパー
メインテーマ
ジョン・ウィリアムズ A9

honey
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