「“信愛と憎悪”この両極端の心理が存在するからこそ人間は生きる意味が在ると思う。」ホテル・ルワンダ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
“信愛と憎悪”この両極端の心理が存在するからこそ人間は生きる意味が在ると思う。
社会性を全面に打ち出した重々しい議題のため、大衆受けする娯楽性豊かな映画を重んずる配給会社に敬遠され、当初、日本では公開するメドするが無かったそうだ。
しかし、そういう業界の方針に憤った映画ファン達が
「この作品を観て、平和に改めて考えよう」
と、ネットで呼び掛け続け、紆余曲折紆余曲折を経て、公開が実現した苦労が有るだけに、サールナートホールで鑑賞した際、人が人を憎しみ、傷付け合う事の愚かさに圧倒された。
そして、どんな状況においても人を信じ、愛し合う大切さも実感した。
“信愛と憎悪”
この両極端の心理が存在するからこそ人間は生きる意味が在ると思う。
同時に殺し合う意味は一切無いはずである。
だが、そんな平和論は机上の空論に過ぎない。
悲しい現実に死を恐れず、挑んだ主人公
の勇気に誰もが心を揺さぶられてしまう。
94年当時、私は高校生だったからよく覚えている。
この頃、湾岸戦争が終結したものの、サラエボ、ソマリア、ボスニアetc.多くの国で民族紛争が勃発していた。
今回の舞台、ルワンダでも、たった100日間で100万人以上もの罪無き人々が、女子供関係無く、ナタで有無を言わさず、頭を割られ、惨殺されている。
そもそも紛争の根本であるフツ族とツチ族の違いなんざぁ、かつて植民地に治めていたベルギーが、労働力として競争意識を高めるため、対立関係を煽ったり、差別化するキッカケに、かなりテキトーな基準で区別したって、『虎ノ門』で今作を取り上げた井筒和幸監督は話していた。
「そんな自分勝手なやり方で人間を支配するなや!」とも論じていた。
ホンマその通りである。
弱き民衆を救うのが当然であるべき警察も政府も国連軍も、各々の私利私欲の為にしか動かず、一切守ってくれない。
主人公は商売柄、持ち前の話術と機転を武器に、たった独りで危機を乗り越えようと奮闘する。
しかし、そんな微々たる力では進展できない。
結局、逃げ場の無い悲しみに包囲され、神に救いを求め、祈り続ける事しかできない。
現在も虐げられているイスラムやユダヤの人々が、盲目的に宗教へ走ってしまう理由が何となくだが、解ったような気がする。
では最後に短歌ではなく、偉人の言葉を記してサゲるとしよう。
『お前らはいとも簡単に人を殺しまくる。こっちは人1人の命を救うのがやっとだというのに』
by手塚治虫/ブラックジャックより