劇場公開日 2000年3月25日

「素晴らしプラス・マイナス・ゼロの旅路」ストレイト・ストーリー 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0素晴らしプラス・マイナス・ゼロの旅路

2011年8月20日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館、DVD/BD

泣ける

幸せ

ある日、アメリカの田舎町に住んでいた老人の家に、長年に渡り仲違いしていた兄が病で倒れたという連絡が入る。

仲直りする最後の機会だと悟った彼は、オンボロトラクターに乗り、遥か彼方に在る兄の家を目指して、6週間にも渡る遠い遠い旅に出る。

ただそれだけの話である。

山場らしい盛り上がりも無ければ、怒涛の感動を呼び起こすクライマックスも無い。

のほほ〜〜んとトボケたお爺さんが、広い大地と遥かな大空の狭間で、ただずっとトラクターに乗って、兄の家に向かう過程を実にノ〜〜ンビリ撮らえている。

でも、なぜか泣けるんだ…。

何も無いこと、
プラス・マイナス・ゼロで生き続けることって、本当は物凄く意味があるのかもしれない。

スクリーンの中に、魅力的な人間が1人でも居てくれたら、それで充分なんだ。

主役のお爺さんが、とてつもなくイイんだ。

自分自身が持っている“何か”をさり気なくオープンに醸し出している。

優しさや素朴さみたいな簡単な言葉では言い表せない“何か”を全て。

学生時代に観た時もジ〜〜ンとしたけど、介護福祉士と成った今やと、なおさら彼の表情が胸に来る。

今作が完成した数ヶ月後、惜しくもお爺さんはこの世を去った。

鬼才デビット・リンチは、彼に
「この役のために生まれてきた役者」
という言葉を捧げた。

お爺さんは、どんな想いで最後の瞬きをしたのだろう。

では、最後に短歌を一首

『今はただ アイツの顔が 見てえんだ 長い旅路を ゆっくり往くさ』
by全竜

全竜