劇場公開日 2019年11月29日

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「ハリウッドの娯楽映画のセオリーに逆らいまくった異様なリアリズムに目が離せなくなる」ゾンビ 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ハリウッドの娯楽映画のセオリーに逆らいまくった異様なリアリズムに目が離せなくなる

2025年3月26日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

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Wikipediaによるとこの作品は80年代初頭にテレビ東京の木曜洋画劇場で2回放映されており、自分は小学生のときにそのどちらかを観ている。
恐ろしくスリリングな映画でテレビに釘付けになったことを強烈に覚えている。

子供時代に怖かった映画というのは今観るとさほどでもないことが多いのだが、この作品はそんなことはなかった。
小学生の頃に観たのと印象がほとんど変わらなかった。これはかなりすごいことである。

もちろん、特殊メイクなどのチープさはどうしても目についてしまう。
ジョージ・A・ロメロはこの作品の前に『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』という伝説的なゾンビ映画の傑作を撮っているが、そっちはモノクロ作品だったため、特殊メイクのチープさがさほど目立たなかった。

本作の青塗りゾンビのメイクは微妙と言えば微妙なのだけれど、その微妙さを補って余りあるのがCG作品では出せない手作りの生々しさである。
人間の目というのは我々が思っている以上に高精細なカメラであり、CG映像の微細な違和感に気づいてしまうことが多い。
CG映像と現実映像の溝はこれから先もどんどん埋まっていくことだとは思うが、CGのなかった時代、何をやるにも手作りと体当たりで表現するしかなかった時代の生々しい迫力を超える日が果たして来るのだろうか。

動物の臓物を使ったであろう食人シーンや、ゾンビが銃で頭を撃ち抜かれたり脳天を唐竹割りにされるシーンなど、今見てもショッキングでとにかく生々しい。特殊メイクアップアーティストのトム・サヴィーニの面目躍如たるものだ。
ちなみに彼はバイカー軍団のヒゲのサブリーダーとして出演して鉈をバンバン振り回しており、俳優としてもいい味を出している。

先程小学生の頃に観たのと印象が変わってないと言ったが、大人になった今だからこそ気づくこともある。

特に感じるのが、この作品がハリウッドの娯楽映画のセオリーからかなり外れた存在だということだ。
とにかく、作品全体を覆っている雰囲気が殺伐としていて暗い。

この作品には大きく分けてアメリカ公開版と、アジアやヨーロッパで公開されたダリオ・アルジェント監修版という二つの流れがある。
ダリオ・アルジェント監修版というのは、イタリアのホラー映画監督のダリオ・アルジェントがエンタメ寄りに編集したもので、日本で劇場公開されたものはこのダリオ・アルジェント監修版を元に、さらに日本独自の変更を加えたものである。

自分が今回観たのは日本で変更が加えられる前の大元のダリオ・アルジェント監修版で、このバージョンは音楽もイタリアのゴブリンというロックバンドの音楽が使われているのだけれど、この音楽がけっこう脳天気な感じでどうにも作品の殺伐とした雰囲気と合ってない。

アメリカ公開版を未見のためはっきりしたことは言えないのだけれど、前作の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の絶望感の漂う雰囲気から、本来のジョージ・A・ロメロ編集版がもっと暗いものであることは容易に想像がつく。

さらに、登場する4人の男女たちもいわゆるハリウッド的な美男美女ではない。
芝居はうまいのだが、どこにでもいそうな感じですごくリアルだ。

4人のうち2人の男はSWAT隊員であり、戦闘スキルもサバイバルスキルも持ってるのだが、特に公益のために行動するということはなく、ただ自分たちが助かるために行動するだけである。
それはこの2人だけでなく、残りの2人のテレビ局勤めのカップルも同じであり、彼ら4人はもちろんお互いを助けるために果敢に行動したりはするのだが、ハリウッド映画にありがちなヒロイズムや正義感とは無縁の存在だ。

そこにジョージ・A・ロメロの人間に対するシニカルな視点、リアリストの視点を感じる。

小学生の自分がテレビに釘付けになったのは、ゾンビに夢中になったわけではない。
いや、ゾンビももちろん怖いのだけど残酷シーンはほとんどカットされていたし、結局は作り物であり絵空事だというのは頭のどこかで理解している。

だが一方で、登場する男女たちの地味〜に普通な感じは子供心にも絵空事とは思えないようなリアルさがあった。
何か異常事態が社会に起こって本当にショッピングセンターに立てこもっている男女たちの生々しい姿を見ているような感じ。
その異様なリアルさに小学生の自分は目が離せなくなってしまったのである。

ハリウッドの娯楽映画のセオリーに逆らいまくった異質な作品であるが故に様々なバージョンが世に出回ることになってしまったのだが、今となってはジョージ・A・ロメロが貫いたその異質さがあればこそ、この作品が陳腐にも古臭くもならず後発のゾンビ映画の山のなかで一際高く聳え立っているのだと言える。

盟吉津堂
NOBUさんのコメント
2025年4月30日

今晩は
 別のお世話になっているレビュアーさんからも、同様のコメントを頂きました。有難うございます。ではでは。

NOBU
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