リュシアン 赤い小人 : 映画評論・批評
2000年7月15日更新
2000年9月2日より銀座シネ・ラ・セットほかにてロードショー
ビザールな“愛”のお伽話
ハンディキャップ、難病ものはややもすると紋切り型におさまりがちである。ハンディキャップを背負い、世間の目に苦しめられながらも清く正しく強く生きてゆく主人公。これまでそんな物語を何度聞かされたことだろうか。だが、現実はそんな甘っちょろいものではあるまい。社会に迫害されれば恨み、差別 されれば復讐を誓うのが人の道というものだ。「赤い小人」がそうするように。
赤い小人は小人だが、泣きごとばかり言っている社会の犠牲者かと思うとおおまちがい、やりたい放題暴れまわり、ギラギラ燃える欲望のままに生きる野生派小人なのである。最初のうちこそおとなしく代筆屋なんぞをやっているが、クレームをつけてきた相手が熟れた未亡人とみるやすかさず押し倒し、女から振られそうになるや絞め殺して逃亡。むしゃくしゃすればバーで自分の倍もある男を殴り倒し、やがてサーカスに入れば大男を殴る蹴るだけの芸で笑いをとる凶悪キラー・クラウンとなる。誰にも文句を言わせない俺様人生。甘っちょろい同情や安っぽいヒューマニズムを突き抜けたところに立っているどてらい男が「赤い小人」なのである。
(柳下毅一郎)