「「伝書鳩でしか連絡の取れない黒人のサムライ」というケレン味を、抑えきって描く」ゴースト・ドッグ ビルキーさんの映画レビュー(感想・評価)
「伝書鳩でしか連絡の取れない黒人のサムライ」というケレン味を、抑えきって描く
武士道に生きる殺し屋、ゴースト・ドッグの話です。
ウィテカーのドヨンと哀愁を帯びた目が印象的(笑)な映画で、ともすれば地味な映画……。
起伏にとんだ筋でもなく、ド派手なアクションがあるわけでもなく、淡々とブシドー・キラーが仕事をしていくだけ。
何が楽しくて見られたのかというと、二時間の尺を埋めつくすクールなシーンの集積でしょう。
随所にはさまる葉隠からの引用、飛翔する鳩のイメージ、日本刀で演武のようなものを見せるゴースト・ドッグに、フランス語しか話せないアイスクリーム屋etc... 細かいところではゴースト・ドッグがCDを挿入するときの手の動きと円盤のひらめきまで!こんな細かいクールさで二時間見させてくれるのだからたいしたもんです。
フランス語しか喋ることのできない「親友」然り、本を仲立ちにしたやりとり然り、台詞の少ない映画の上に、とにかく言外のコミュニケーションが多い笑
ダウン・バイ・ローにも英語のフレーズを集めるイタリア人が出たっけ。
「言葉が違ってもハラで伝わるもんは伝わる。伝わらなきゃそれでもいい」みたいな考えをジャームッシュは持っているのだろうか?
「陸に船を造り上げているスペイン人」の面白さなんか、こんな風に言葉で説明しても伝わらないし白けてしまう。そうした言語化される前の出来事の馬鹿馬鹿しさ、感覚的な親密さが描かれていると思いました。
そうした多言語的な状況が特有の面白さになっていることは確かです!
英語とフランス語の会話とか、見ている側は字幕のおかげで二人が何を話しているか分かるんだけど、当人たち(ゴースト・ドッグとレイモン)は互いの話の内容はサッパリわかっていない。この「狙ってない感」が、わざとらしいボケとツッコミみたいなコメディとは全然違う、肩の力の抜けた面白さを感じさせてくれる。
言わないで済ませる部分の多い映画、ダブル・スペースで書かれた文章の行間を読むような映画なので、唯一解を目指してガッツリ解釈しようとすると疲れてしまうかも。
映画の最初と最後に強く関わってくる本が「羅生門」で、中でも作中で「藪の中」に言及しているというところに、「どんな風にでも見てくれ」という監督のメッセージを見た気がしました笑
P.S.
アクションも派手じゃない、と書きましたが、館の中での、サイレンサーを使った静かな立ち回りシーンはとても良かったですよ!