風が吹くまま : 映画評論・批評
1999年11月29日更新
2021年10月17日よりユーロスペースほかにてロードショー
写真家でもあるキアロスタミが描く美しき“静止”風景
ヴェネチア映画祭で審査員グランプリを受賞した「風が吹くまま」が劇場公開される。設定は次のようなものだ-テヘランのドキュメンタリー監督がクルディスタン地域の村に特異な葬儀の取材にやってくる。だが、間もなく亡くなると思われた老婆はなかなか死なず、監督はなすすべもなく村に滞在する羽目になる…。ここには「オリーブの林をぬけて」の超絶技巧も、「桜桃の味」の知的な構成も存在しない。観客は宙づり状態になった男の空虚な日常に約2時間つきあわされることになるだろう。ここに何かドラマチックな展開を期待した観客は、主人公同様、途方に暮れるしかない。だが、腹をくくってこの映画そのものを受け入れることを決意した者は、一見空虚な時間が実に豊穣なイメージに溢れていることに気づくに違いない。もちろん、その映像の一つ一つから象徴的な意味を見いだすことも可能であろうが、必ずしもそのような知的な努力は必要ない。クルディスタンの息を飲むような美しい風景をただ無心に見ているだけでも、この映画は何かを喚起させ、見る者にとてつもない感動をもたらすだろう。このような種類の映画を、私は他にあげることができない。文字通 り、希有な傑作である。
(市山尚三)
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