「四半世紀前の幻想と現状との乖離に心が痛む。」シュリ TRINITY:The Righthanded DeVilさんの映画レビュー(感想・評価)
四半世紀前の幻想と現状との乖離に心が痛む。
ドラマ『冬のソナタ』とともに、韓流ブームの魁けとなった名作アクション映画。
初めて劇場で拝見した韓国映画は『国際市場で逢いましょう』(2015)だった。
ホームドラマの延長みたいなもんかなと思ってたら、そのスケールのデカさに圧倒されたのを今でも思い出す。
最近、TVのコメンテーターが「映画やドラマでは日本より韓国の方が先を行っていた」という趣旨の発言で槍玉に挙げられたらしいが、彼女の意見は間違っていない。
21世紀以降のアジアのサブカルチャーを韓国が牽引してきたのは周知の事実で、本作でもハリウッド映画の向こうを張るアクションシーンを盛り込みながら、韓国でしか出来ないモチーフに挑戦して作品のオリジナリティと完成度を高めている。
この作品では二種類の魚を寓意的なシンボルとして用いている。
ひとつは作品タイトルにもなった朝鮮半島固有種のシュリ。
テロ計画のコードネームにもなっているこの魚の名には、国土が分断されて自由に往来できないコリアン民族の苦衷と、当時の南北融和ムードにかける想いが込められているのだと感じる。
一方のキッシンググラミーは、ヒロインが営むアクアショップで扱う鑑賞魚。
キスのように見える生態は作中では仲睦まじいカップルの愛情表現と説明されるが、実際はオス同士の闘争行動。愛し合いながらも互いに銃口を向けることになる主人公ジュンウォンと恋人ミョンヒョンの運命を暗示するとともに、分断のために同胞が殺し合う悲劇をも象徴している。
映画が製作・公開された1999年から今年でちょうど四半世紀が経つが、本作に込められた南北の融和やその先の統一成就への期待にはほど遠い現状に暗澹とさせられる。
その意味では映画のメッセージは裏切られた恰好だが、もちろん作品の評価とはまったく別の話。
ヒロイン以外に女性の主要人物が登場しないせいで、イ・パンヒの正体が容易に想像つくのがプロット上の大きな欠点だが、それを差し引いても高評価出来る作品。
単純なアクションものとしてシューティングゲームの延長線で鑑賞するような映画ではないことを、個人的に強調したい。
緩急のない張り詰めた展開で、茶化せるとこなどほとんどないが、どうしてもひとつだけ気になる点が。
架空の液状爆薬CTXの見た目が某アニメ作品(OVA)の「ワシの梅サワー」そっくり。
緊迫した場面にしか出てこないので、なおさらおかしかった。
韓国のクリエーターも、ああいうの見てるのかな。