劇場公開日 2024年9月13日

「全編を覆う暗いセンチメンタリズム」シュリ あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5全編を覆う暗いセンチメンタリズム

2024年9月18日
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鑑賞方法:映画館

日本では1999年の冬に公開された。韓国映画がロードショー公開された最も初期のケースだと思う。この後、「JSA」「オールドボーイ」など秀作が続々やってきて、TVドラマで2002年に「冬のソナタ」が放映されたこともあって最初の韓流ブームを迎える。
私はソウルオリンピックの前の年1987年に初めてソウルに行った。当時はソウルですら大きな田舎であって日本語は禁じられているし超一流ホテル以外は英語も通じなかった。街中、アルファベットも漢字もない。例えば地下鉄はハングル表記しかないのでそこが何駅かすら分からない。映画も全くローカルであって固定カメラで役者がボソボソ喋っているだけで何を演じているかすら見当もつかない。技術以前のレベルだった。
風穴を開けたのがこの「シュリ」である。銃撃アクションものとしても、カーチェイスものとしても、スタジアムパニックものとしても、おそらく韓国映画で初めて世界レベルに到達した作品だと思う。今、観てみると銃撃シーンは画像がブレブレでいかにも素人っぽいが。
この作品は現在の韓国映画の原点と言ってよい。
この作品の監督であるカン・ジェギュあたりからはじまりボン・ジュノ、パク・チャヌク、イ・チャンドンなど新進の映画人たちが輩出し一気に韓国映画は変わっていく。
だが、韓国映画新時代の原点となるこの作品は、以後の韓国映画の特徴をすでに身にまとっているのである。
1つ目の特徴は対立軸がはっきりしていること。これはこの映画の段階ですでに50年続いている南北の対立がある国だからこそなのだろう。南北だけでなく、警察と検察、警察とヤクザ、ブルジョアと貧乏人、家庭内での対立も含め、様々な対立が気持ち良いほどくっきり描かれる。
2つ目の特徴は、その対立が、多くの場合、暴力の執行にまで発展し、行き着くところまで進むところにある。韓国映画の中では争い事が話し合いで解決したとか、一方の当事者が身を引いたとかの決着はあまりみたことがない。
3つ目は全般を覆う悲壮感というか無常感というか、暗いセンチメンタリズムである。この映画でも、主役のジョンウォンとミョンヒョンは恋仲でもう少しで結婚するという関係でありながら、会うのはほぼ夜であり、常に観賞魚の水槽のライトに青白く照らされている。この恋は実らない、不幸な結末を迎えるという予感が甘く、切なく、哀しく、漂っている。まさに韓国映画独特のセンチメンタリズムともいうべきものであり本作以降、引き継がれていく。

あんちゃん
Mさんのコメント
2024年11月2日

私は先日はじめて見て、とても感動しまた。
韓国映画の概略を読み、なるほどなあ、と感心しました。
「対立」「暴力」「無常感」シンプルで的確な指摘ですね。

M