「「戦争という狂気の中に美が輝く」」戦場のメリークリスマス かなさんの映画レビュー(感想・評価)
「戦争という狂気の中に美が輝く」
1942年、ジャワ島の日本軍俘虜収容所が舞台だ。戦争映画なのに戦闘シーンが一切出てこないまれな映画である。俘虜を「支配する」日本軍人「支配される」連合国軍人。戦争という理性など吹っ飛び狂気が渦巻いている中で、理不尽なことがまかり通ることは当然だ。つまりそこには善悪といった価値基準は存在しない。
この映画の特筆すべきポイントは美である。ヨノイ大尉(坂本龍一)がセリアズ(デヴィット・ボウイ)を裁判所で接見した時のヨノイの刈り上げた額の下で眼光鋭い目つきの美しさ。セリアズの死以上のことを恐れている儚い目つきの美しさ。
セリアズがハラ(ビートたけし)に「顔は変だが目は美しい」という台詞。ヨノイの正座している後姿の美しさ、剣を振るう姿の美しさ。セリアズがヨノイに近づき両頬に接吻するときのヨノイの恐れと恋心が入り混じり動揺する目の美しさ。そうこの映画は、狂気の中に美が充満しているのだ。
その外見上の美が内面上の美に変換される。この変換は敵味方に分かれてはいるが、友情と愛が現出しているのだ。生きるとか死ぬという境界も超越している地点で。
セリアズが死以上に恐れたエピソードは回想シーンで描写される。自分のプライドのために大切な人を裏切った自責の念。そして忘れられない美しい声。ここにも美が存在している。美を裏切ったセリアズは、美の恐怖に震える美を身体に纏っているのだ。
ラストシーン、ハラがロレンス(トム・コンティ)に「メリークリスマス、ミスター、ロレンス」と言ったときのハラの笑顔がなんと美しかったことか。生や死、善悪すべてを達観した笑顔。この映画は、戦争という狂気の中にも美が存在していたことを大島渚は描写したのだ。