「八絋一宇、規律と温情のはざまを彷徨い名曲に酔いしれる。」戦場のメリークリスマス momoさんの映画レビュー(感想・評価)
八絋一宇、規律と温情のはざまを彷徨い名曲に酔いしれる。
映画館で観るのは初めて。その昔、テレビで観た時はまだ子供で今ほど深く感じることはできなかった。雰囲気の素晴らしさだけを感じていた。
大人になってスクリーンで観て、じーんと込み上げるものがあった。
八絋一宇の書が飾られている場所で裁きが行われる。
天下はひとつの家、そのための規律は守らねばならない。
がんじがらめだ。 今、宮藤官九郎がドラマ「不適切にもほどがある」で昭和50~60年くらいの時代の不適切さを描いているが、この映画の40年代は今の令和に観るとほんとにほんとに不適切にもほどがある×10レベルだ。
暴力に、公開処刑、行という名の48時間絶食、美徳であった切腹、生き埋めまで。
だが規律は守らねばならない心の攻防戦。デヴィッド・ボウイのセリアズにひと目で心を撃ち抜かれた坂本龍一のヨノイの心の葛藤が静かに静かに描かれていた。
軍人全てが心を押し殺し厳しい表情をしている中で、ビートたけしのハラの笑顔が際立っている。このコントラストが素晴らしい。
この映画の見せ場となるハラが酔ってメリークリスマスと言うシーンは最高だ。このヘラヘラした感じは喜劇人たけしにしか出せない味わい。
トム・コンティのローレンスの女とのひと時の回想、まるでタバコを買いに行ったのを待っていたかのようにその場にいたという語りは、女の姿は映像になっていないのに鮮明に目に浮かぶ。
その後のセリアズと弟の物語がまた美しい。ボーイソプラノが美しすぎる。
規律があるのは日本だけではない、男子校の代々の習わしもおぞましいくらいに不適切だ。だが当時は耐えねばならなかったのだ。耐えてこそ美徳だったのだから。
自分に気持ちがあるのわかっていて殺される上官をかばいに出ていきヨノイに2度キスをするセリアズ、カッコよすぎる!そりゃヨノイ、卒倒するわ!
そのあとの細かなシーンは描かれなかった。
ヨノイがかばっても、その後のセリアズが許されることはなかった。生き埋めはハラキリよりしんどいぞ。悲しい悲しい結末。
数年後のローレンスとハラの再会のシーンが泣けた。
間もなく死に向かうたけしの笑顔がすべての闇を救ってくれる。救い主だ。潤んだ瞳を見たら泣けてきた。
背後には美しい音色。こんな曲どうやって作ったんだろう。いつまでもいつまでも脳内ジュークボックスで無限リピートしながら帰路に着く。
大島渚の世界観、堪能いたしました!