「ビートたけし礼讃」戦場のメリークリスマス pekeさんの映画レビュー(感想・評価)
ビートたけし礼讃
はじめて女の子と観た思い出の作品。
当時、男子校の生徒だった僕は、待ち合わせ場所にいく途中、吐きそうになるほど緊張していた。
デートらしいデートなんてしたことなかったし、その女の子にも会ったことがなかったからだ(友達に紹介されたのだ)。
僕らは三宮で落ち合い、とりあえず喫茶店に入った。
女の子は予想以上に可愛く、おまけに予想以上にスカートの丈が短かったので、僕は心臓バクバクでクリームソーダをすすりながら何とか会話をつづけた。
そのあと、観たのがこの映画だった。
とにかく、緊張してドキドキするし、スカートの丈も気になるしで、当然のことながら映画にはほとんど集中できなかった。
そんなわけで僕は、その後しばらくしてこの映画を一人でもう一度観にいった(と記憶している)のだった。
1983年の夏のことだ。
件の女の子とはそれっきりになってしまったけれど(悲)、YMOを熱心に聴いていた僕にとって、“教授”が音楽を担当し、主演までつとめた本作はひじょうに印象深い作品となった。
デヴィッド・ボウイ、内田裕也、ジョニー大倉、三上寛といった、音楽畑からの面々の出演も刺激的だった。それに加えて、お笑い界の寵児ビートたけしである。
これらの個性的なキャストが功を奏して、結果、映画は大ヒット、「戦メリブーム」とも呼べるような興奮を生んだ。
この映画は我々YMO世代に大きな刺激を与えたのだった。
しかし、刺激は受けたものの、本作の内容に感動したかと問われれば、「うーん……」と躊躇するところがあった。
僕は、80年代を象徴するこの映画に「恋」をしていたのかもしれない。東南アジアの捕虜収容所を舞台にして、旬の役者陣や音楽が織りなす、独特の雰囲気を持った「戦争映画」に酔っていた節がある。
正直に言って『戦メリ』が何を表現しようとしているのか、当時の僕には理解できなかったのである。
あれから38年が経って、三度(みたび)『戦メリ』を観た。
やっぱり、「うーん……」という感じがした。
けっきょく何回観ても、この映画が何を言おうとしているのか、僕にはわからないのかもしれない。
ただ、「ビートたけしは、とてもいい」とあらためて思った。
たけしが絡むシーンだけ、妙にリアリティーがあるのだ。まるでホンモノの日本兵がそこにいるように。
これはビートたけしを観るための映画だ、と言ってしまいたいくらいだ。
同じように収容所を舞台にして、よくわからん同性愛色を排除して、たけしを主演に据えて撮っていれば、もっと骨太な、もっと面白い、ホンモノの「戦争映画」ができたのにと思った(まあ大島さんは、そんなもの撮りたくなかったのだろうけれど)。
まあそれはそれとして、絶妙のタイミングで流れる“教授”の音楽には、やはり心を動かされるものがあった。それは38年前と同じだった。
そして、あのエンディングの場面は、やはり日本映画史に残る名シーンと言っていいだろう。
それにしても、最近の映画で何十年も後に再映されるものがどれくらいあるだろう?
いまの若い人が中年になって、「そういえば、あのとき、あの子と観たなぁ」と懐かしく思えるようなものが何本上映されるだろう?……。
素敵なメモワールですね♪
初めてのデートで選択する映画は難しいもの。
特にこの作品だと、学生にとっては抽象か幻想の迷路に迷い込んだような、不思議な雰囲気になりそうな気がします。
今のように指定席制でもなく、光と闇と熱量の異空間であるシアター。教授の音楽。怪しげな映像。
それらの記憶が時間に熟成されて、芳醇なワインに変わったような・・・。
そんなレビューだと感じました。