「【価値観の変化の更に先を行ってしまった作品】」戦場のメリークリスマス ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【価値観の変化の更に先を行ってしまった作品】
リバイバル上映にあたり、カンヌで無冠に終わったためか、「大島渚最大のヒット作」とフライヤーには謳われていた。
ただ、僕は大島渚さんの最も名作だと思っいる。
当時、パルムドールを受賞したのは予想外の「楢山節考」だった。
「戦場のメリークリスマス(戦メリ)」は受賞確実と騒ぎすぎて審査員の不興をかったとか、作品関係者が皆、横柄な態度だとか揶揄されたり、批判が多かったのを覚えている。
後評として、楢山節考はヨーロッパにも通じる風習を含んでいたことが受賞のポイントになったと読んだことを覚えている。
そして、戦メリについては腫れ物を触るような扱いだったかもしれない。
しかし、その後、ビートたけしさんが、あの毒舌でラジオなどメディアで自虐的に取り上げたため、それがきっかけで国内では大ヒットになっと言われている。
ただ、僕は、ストーリーや、ビートたけしの出演に加え、デビット・ボウイ、坂本龍一、トム・コンティ、ジャック・トンプソン、ジョニー大倉、内田裕也(敬称略)と錚々たるキャストで、ヒットの下地は十分すぎるほど十分だったと思っている。
そして、ストーリーは今考えてると、「時代の…」というより、「価値観の変化」を相当先取りしていたように思う。
戦地の捕虜収容所。
過酷な環境。
監視者と俘虜(捕虜)。
戦地でありながら抑えられない性欲。
友情なのか愛情なのか。
戦地でありながら美しい風景。
戦地でありながら美しいセリアズやヨノイ。
セリアズの後悔やトラウマ、そして勇気と自己犠牲。
立場の逆転。
こうしたものを散りばめて内在するテーマは、当時より今の方が、より受け入れられているのではないのか。
立場が逆転することことになっても、ハラのローレンスに発する言葉は同じだ。
Merry Christmas、Mr.Lawrence
僕は、人間の本質は憎しみ合うことではないと云うメッセージも含んでいるように感じる。
セリアズの美しいブロンドの髪の毛は、ヨノイの希望の通り、日本の神社に奉納されたのだろうか。
なぜ本国ではなかったのか。
ヨノイは、日本でセリアズと共にありたいと思っていたのではないのか。
改めて鑑賞しても、様々な余韻が残る作品だった。
※ 大島渚さんは、この後も、マックス・モン・アムールで動物と人間の愛を、御法度では同性愛を描くなど問題作に挑んだが、やっぱり、僕的には、戦メリを越えられてはいないと感じる。
野坂昭如さんと舞台上で殴り合ったなどエピソードに事欠かないが、骨のある作品に挑む姿勢は、今でも多くの人の憧れだろう。
時代は変わるが、このスピリットを受け継ぐ映画制作者が、国内外に関わらず、より多くて出てくることを願う。