上海の伯爵夫人 : 映画評論・批評
2006年10月17日更新
2006年10月28日よりBunkamuraル・シネマにてロードショー
アイボリーとドイルのコラボレーションだったが…
ジェームズ・アイボリー監督×撮影・クリストファー・ドイル。今までの作風を見る限り、どう見たって水と油なこの2人が、1930年代の上海・外国人租界をどう描くか。特に物語の核となるのは、ナイトクラブを成功させるために手を組んだ、元外交官の米国人(レイフ・ファインズ)と、ロシアからの亡命未亡人(ナターシャ・リチャードソン)のプラトニックな恋だ。このつかず離れずの微妙な関係にエキゾチックなアジアが舞台とくれば、ドイルが手掛けた「花様年華」並の、匂い立つような官能とスリリングな関係を期待していたのだが、結果的には「お上品」なアイボリー色の勝ち。どうもアイボリー監督はドイルを上手く使いこなせなかったようだ。もっとも普通に、日中戦争直前の混沌とした上海に、夢を求めて集まってきた者たちの歴史ドラマとして見れば興味深い作品である。
その象徴たるのがロシア革命で国を追われたソフィア(リチャードソン)ら貴族。クラブに勤めるソフィアを「娼婦」と罵りながらも、彼女に依存して暮らすしか術を知らない彼女の義母(リン・レッドグレイブ)や叔母(バネッサ・レッドグレイブ)らの哀しきプライド。しかもこの、女性ならではの嫌みの応酬をレッドグレイブ一家が演じている贅沢さ。このシーンだけでも見る価値アリだ。
(中山治美)