北京ヴァイオリン : 映画評論・批評
2003年4月15日更新
2003年4月26日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
父子愛とバイオリンが淀んだ心を浄化する
中国の田舎町でコックとして働くリウの望みは、息子チュンを立派なバイオリニストにすること。コツコツと貯金し、北京で開かれるコンクールに出席するが……。これは、「キリング・ミー・ソフトリー」で実力発揮できなかったチェン・カイコー監督の汚名返上となるヒューマン・ドラマだ。
舞台となるのは、激変のさなかにある北京。地獄の沙汰も金次第といった様相で、ニュー・リッチたちがコネを使って勝手し放題。せちがらい世の中で心も荒みきった人々が、強い絆で結ばれた父子と関わることで「人はどう生きるべきか」を思い出し始める。特に心打たれるのが息子の成功を信じ、ありったけの愛情を注ぐ父親の姿だ。無学だが滑稽なほど正直者で、息子のためなら苦労もいとわない。生き馬の目を抜く都会で、人情を武器に体当たり勝負をかける。おとぎ話に登場するような“いい人”なのだ。そんな父に育てられた息子がいい子になるのも当然。思春期の少年らしく近所の美女にあこがれたりするが、道は決して踏み外さない。
こんなにも愛情深い父子関係は、人間関係が希薄な現代においてはファンタジーでしかあり得ない。しかし、だからこそ我々の淀んだ心が浄化されるのだ。そしてもちろん、全編を彩る美しいバイオリン音楽が浄化作用の促進剤となってくれる。
(山縣みどり)