劇場公開日 2001年5月26日

ベンゴ : 映画評論・批評

2001年5月15日更新

2001年5月26日よりシネマライズほかにてロードショー

激しくも哀しい──胸に突き刺さる魂のフラメンコ

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「ラッチョ・ドローム」「ガッジョ・ディーロ」、そして本作と、自らのルーツでもあるロマ(ジプシー)の魂を描き続けるトニー・ガリトフ。題名に“復讐”の意味も含んだこの「ベンゴ」は、中でも最も荒々しい、血と報復の物語だ。

舞台はスペインのアンダルシア地方。遠くインドを発祥地に、ユーラシア大陸の果てまで辿り着いたロマ民族の魂は、ここでフラメンコに結晶する。最愛の娘を亡くして生きる意味を失った男が、家同士の抗争から命を狙われる甥の身代わりになるという物語自体はシンプルだが、冒頭からライブ感覚で展開するフラメンコの演奏、歌、踊りに、ロマの血が熱く燃えたぎる。

遺伝子に組み込まれているとしか思えないリズム感とソウル。障害を持つ甥は不自由な体いっぱい感情を踊りに託す。逆に、伝説的フラメンコ・ダンサー、A・カナーレス演じる主人公は、踊りは一切見せずに、運命に抗えない人間の悲しさを表現する。この対照に、ロマの魂は、幾世代にも渡ってあらゆる人々に息づいていることが示唆されているのかも知れない。それは遠く演歌にも通じ……というシーンさえあり、日本人の胸も熱くなる。ロマとは本来、“人間”を意味するそうだ。

田畑裕美

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