スワロウテイルのレビュー・感想・評価
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『円都は嫌いだ』
『イェンタウンはお前らのふるさとの名前だろ』
『円都は嫌いだ』
この時点(1996年)で、
現在は見向きもされない日本の姿をこの演出家は言い当てている。
黒澤明監督の『天国と地獄』に出てくるアヘン街をリスペクトしていると思う。彼は宮城県出身だが、横浜の大学を卒業している。全くの私見であるが、『天国と地獄』のアヘン街も横浜であった。それに彼がインスパイアされていると僕は感じた。そして、
脱亜入欧の福沢さんでなく、欧米に劣等感を持っていたという夏目先生を『焼く』って言うのも洒落ている。
この映画は二度目。初見は『アレ?』と思ったが、寧ろこちらが彼のカラーなのかも。傑作だと思う。その他にこの映画は『赤線地帯』『ブレードランナー』をリスペクトしている。
かつてあった娼館やアヘン街は今はない。しかし、この映画公開の1996年時点でも、表向きには違法ではない飲食店の様な店が軒を連ねていた。勿論、今はそれもない。
しかし、それは根絶されたのだろうか?
全部アゲハのせい
25年以上前の映画だが今さら鑑賞した。
当時から評判は高かったし、Charaの主題歌くらいは知っていたので
期待値が高かったが、2022年の今見たからだろうか、
映画としては何とも退屈で面白いとはとても言えなかった。
セリフの言語を頻繁に変えることで独特の世界観を出したいのだろうが
日本人出演の邦画で日本語のセリフが殆どないのが単純に不自然で、
そこが終始気になって、見づらくて仕方ない。
ストーリーもとっちらかっており、山場が始まると思わせておいて
萎んでいったり、というシーンの連続でダラダラと続いていく。
主人公のアゲハの行動に一貫性や説得力が無く、
中盤から急にイキり出し、スラムのガキ共やジジイ相手ににドヤる。
そのガキにバラ撒かせた偽造紙幣が大事になり、これが遠因となって
フェイホンが死に(尋問を受けたのは偽造紙幣の被害が拡大していいたため)、
リョウ・リャンキが暗殺された原因にもなっている。
にもかかわらず、アゲハはしれっとフェイホンの葬式に出席し
役に立たなかった偽造紙幣を焼く。いやお前のせいだろ。
その後も命の恩人であるリャンキに「お礼」とか言いながら
もともとリャンキのものである盗んだテープを渡し
リャンキが探している妹がグリコであることを聞いていながら
「娼婦のグリコ」などと兄の前で言い煽る。
結局アゲハがいなければ、グリコとフェイホンは¥タウンで
ほそぼそと暮らせていたのだと思うとやりきれない。
一方で、Charaの歌唱は今聞いても色褪せず、荒廃しながらもどこか無邪気な
映画の世界観にとても合っていた。
歪さが癖になる感じで唯一無二の独特な世界観の作品です。
実はまだ観た事が無い作品だった事もあり、池袋の「新文芸坐」で「岩井俊二の世界」特集上映をされると言う事で観賞しました。
で、感想はと言うと、独特な世界観が癖になる感じですが、ストーリーに関しては色々と突っ込みどころは有るかな〜って感じ。
岩井俊二監督と言うと個人的には「Love Letter」や「ラストレター」の透き通る様な純粋な世界観の作品と言うイメージがありますが、その一方で荒唐無稽の様で混沌とした中の純粋な「何か」の世界観を醸し出す作品の両輪で、どちらにも言えるのはその世界観の中の「純」と言う言葉が醸し出される美しさなんですよね。
"円"が世界で一番強かった時代。一攫千金を求めて日本にやってきた外国人達が蔓延る「イェン・タウン」は様々な意味で"円都(イェン・タウン)"と"円盗(イェン・タウン)"と呼ばれる。
バブルをモチーフにしたとされ、イェン・タウンは日本でありながら、日本でなく、アジアの無国籍なイメージが充満している。
日本語、英語、中国語。また、それらを混ぜた様な人工言語的な言葉も魅力的で難解と言えば難解だけど、何処か厨二病をくすぐる感じがたまらんですw
オープニングとラストのナレーションがカッコいいんですよね。
作品の美術監督を務められた種田陽平さんが押井守監督との対話の中で作品の架空の東京をつくる際、参考になった映画は唯一『パトレイバー』だったと明かしているとの事ですが、そう言われると納得。
パトレイバーの世界観は年号が平成ではなく、昭和が続いている世界で、何処かノスタルジックでアナログ、それでいて無国籍な世界観がありますが、押井作品は何処か共通した世界観を持っているので、「攻殻機動隊」や「スカイクロラ」「アヴァロン」にも共通した感があるんですよね。
今から四半世紀前の作品なので出演者も若い。三上博史さん、CHARAさん、伊藤歩さん、江口洋介さんとキャスト陣も抜群。特に江口洋介さんの雰囲気は良いんですよね。
CHARAさん演じるグリコのイメージはそのまんま作品のイメージであり、CHARA = スワロウテイルと言っても過言では無いぐらい。
ホントCHARAさんの為に作られたのでは?と思ってしまいます。
独特な世界観が抜群の作品ですが、難点も有り。
作品が第一章と第二章的になっていて、前半の第一章的なのが好きなんですが、後半の第二章からはちょっととっ散らかり過ぎかな?と。
細々とした部分では粗さが目立つし、言わんとしている事も分かるんですが、どうにもどうしたいのかが粗いです。
現代日本の情景描写と戦後の様で中国の九龍城の様な雑居で場末感は所々で違和感を感じる。「でも大阪だったらこんな所あるよね」と言う感じがしなくもないですw
また、グリコがヒロインですが物語はアゲハの成長譚でもあるので、どっちつかずにも感じる。
全体的にイメージが先行しているので、そこに至る演出なんかも雑に映る。
そこに引っ掛かるとどうにも乗り切れない感じがしますが、そこを"それはそれ。これはこれ。"的に出来ると良いのかな。
また、主題歌でもあるYEN TOWN BANDの「swallowtile butterfly ~あいのうた~」も劇中には流れず、エンディングだけ。劇中に流れるのは「マイウェイ」。
この作品のイメージをそのまま表している様な曲なので、もう少し「swallowtile butterfly ~あいのうた~」を劇中でも流しながら大切に扱っても良かったのではないかと思ったりします。
その他に今では倫理観に引っかかって放送出来ない様な描写も多い作品ですが、この時代だから出来た。岩井俊二だから出来た。とも思えると懐かしくも愛おしく、唯一無二な作品です。
いろんな事を書きましたが、歪で粗い作品ではありますが、その歪さが味であり印象には多分に残る作品で、とにかく設定と世界観が独特かつ至高な感じが癖になります。
当時にリアルタイムで観ていたら、もう少し印象や感想は変わるかと思いますので、あくまでも一意見として捉えて頂ければ幸いです。
映画館で見たい作品
岩井俊二作品を、リップヴァンウィンクルからはじめて、あまり合わなかったので今まで見ていなかった。
1990年を代表する作品だっただろうけど、
今見ても全然色褪せない。
特にグリコ役のCHARA。アゲハ役の幼い伊藤歩。
特に伊藤歩以外のアゲハなんてもう考えられない。
中国語なのか英語なのか日本語(カタコト)なのか。
言葉があんなに断片的なものだけで、世界観を表現できるものなのかと思った。
最初と最後のモノローグ、見る前と見た後では印象が違う。
円の価値が一番高かったころ。
イェンタウンは日本(円街)のことでありながら、日本人はその言葉を嫌い、日本に出稼ぎに移民してきた人たち(円盗)のことをさすようになったーーー。
貧富の差が激しく、底辺を喘ぐ人たちにとって
円を稼ぐことは富の象徴で、今の場所から抜け出すことと同義。
ひょんなことから偽札製造に関わることになり、それで得たお金でグリコの歌うライブハウスを作る。
グリコは売れ、スターになる。
離散する仲間、露見するスキャンダル、それぞれが本当に欲しかったもの。
2時間映画館に缶詰にされて、ずっとスワロウテイルを見て、満たされていたい。
街の風景がとてもとてもきれいな撮り方で、
まるで自分がそこにいるようなリアルさがあった。
豪華なキャストの中国語、英語+YEN TOWN BANDの主題歌が最高でした
岩井俊二監督第2作で多国語を用いての表現が独特だなと思いました。
中でもキャストのほとんどが中国語や英語で話すのにも大変だっただろうと思いました。特に山口智子さんや渡部篤郎さんの最後の終盤がよかったです。
最後のSwallowtail Butterflyもよかったです。
非現実的な世界が秀逸な哀愁に満ちた映画
昨日15年ぶりくらいでしょうか?DVDでみました。
148分ってずいぶん長いけど飽きないかなぁ…と心配でしたが、まったく飽きることなく、岩井ワールドにまんまと引き込まれました。
「Once Upon a Time~」からの工場地帯や風景の撮り方のファンタジー感が秀逸で、まずそこで世界に引き込まれ、その後のアゲハのお母さんの遺体をイェンタウンの人々で引き取るシーンの異様さが非常に目を引きました。
話は大枠、前半後半にわかれているのでしょうか。
前半はイェンタウンの人々がバブルがはじけた後でも、円を稼ぐことを夢見て、詐欺まがいのことから体を売って金を稼いでいく中にアゲハがほおり込まれグリコと一緒になり、事件に巻き込まれることでさまざまなストーリーが生まれていく。
グリコを買いに来た男を誤って転落しさせてしまい死体を埋めにいったことで、1万円の磁気データの入ったテープを発見し、それを元に、大金を手にする。始まり方の陰鬱さから、金を手に入れたくらいのシーンのはかないながらも楽しい雰囲気のシーンは何か心がほっとする感じすら覚えました。
後半はフェイフォンがYEN TOWN CLUBをつくり、そこでグリコをスター歌手に押し上げていくところから始まります。
お金を手にした、フェイフォン、グリコ、アゲハは3人で更なる成功を夢見て、クラブを立ち上げるわけですが、その不思議な家族感というのもとてもほほえましく、なんだかほっとしました。
ただ、グリコがスターになることで、3人はグリコを取り巻く環境に翻弄され散り散りに…。愛し合っていた?フェイフォンとグリコは引き離され、アゲハは少年ギャングを頼りに偽札で更なる大金を作り3人で作り上げた幸せを取り戻そうとするのですが…。アゲハが少年ギャングを組織して、金を集めるシーンはまさに圧巻で、何かを成し遂げるのではないかという期待感すら出るくらいの高揚感がとてもよかったですが…。
彼らが大金を手にする元となったテープをめぐり、グリコは追われ、フェイフォンは捕まり殺されてしまい。すべてを失ってしまう。
フェイフォンの遺体を焼くシーンでアゲハは自分でつくった大金をフェイフォンの遺体とともにすべて焼き払ってしまう。
自らの生い立ちに翻弄されながら、一度は現実となった一攫千金…円が虚構でしかないと思い知ったのでしょうか?
とても悲しさに満ちたシーンでした。
どん底の生活から抜け出し、幸せになるためにお金を稼いだわけですが、そのお金では買えない幸せがあり、さらなる幸せを望んだがゆえに、すべてを失ってしまう…そんな悲しい現実をまざまざと見せ付けられた気がしました。
救いのない映画ともいえますが、悲しさ、愛情、そしてお金に執着する人間のサガ…いろんなことを思える、そんな映画です。
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