劇場公開日 2006年8月5日

「日本最大のタブーの中のタブーの叫び」太陽(2005) 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0日本最大のタブーの中のタブーの叫び

2012年8月17日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

邦画の世界には、テーマとして扱っていけないタブーが数多く存在する。
《セックス・特に性器》
《大量虐殺》
《精神薄弱者》
《宗教》
《差別》
etc.etc.…。
中でも、タブー中のタブーが《天皇陛下》である。

セックスでは大島渚が『愛のコリーダ』、
大量殺戮では深作欣二が『バトルロワイヤル』etc.日本を代表する巨匠達がタブーに挑戦し、話題となったが、1人の人間として天皇陛下の胸中に迫った映画は、コレまで1本も存在していなかった。

神聖なる天皇陛下が感情を露わにするのは、創り手にとっても観客にとっても、日本国民として有り得ないからだ。

ごく普通に台詞を言わせるキャラにすること自体、危険な行為なのである。

そんな禁断の果実をロシア人の監督が創れるワケがない、と思っていたが、今作を観終わると、外国人だからこそ成立できたんやなと実感した。

《天皇陛下=人間》と云う思想は、外国人の持つ客観性が必要不可欠だからである。

戦争前から、現人神様として崇められた天皇の存在は、日本全土が焼け野原になりアメリカに負けた瞬間から、間違いだと全否定される。

では、天皇陛下は一般人になるのか?と思いきや、そうではない。
天皇は、国家の象徴へと変わる。
「何なんだ!そのアヤフヤな存在は!?
天皇はみんなと同じ人間ではないのか?!
いい加減にしてくれ!!」
という叫びが、天皇自身からスクリーン目掛けて投げつけられたのは、映画ファンとして面白く、日本人としてショックな内容であった。

戦争に対し、絶えず葛藤する天皇陛下を熱演したイッセー尾形の姿勢は凄まじい。

モノマネではなく、憑依の域に達しており、終始圧倒された。

テーマがテーマだけあって敷居が高く、わかりづらい部分が多かったが、彼の超越した演技を目の当たりにするだけでも一見の価値がある。
そうやってノンキに感想述べられるのは、クドいかもしれないが、今の日本が平和だからこそだろう。

戦争と平和、そして、天皇の意味について改めて考えさせられる深い味わいの映画であった。

では、最後に短歌を一首

『人はまた 平和を願ふ 我もまた 太陽は云ふ 嵐の果てに』
by全竜

全竜