劇場公開日 2003年3月29日

スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする : 映画評論・批評

2003年3月15日更新

2003年3月29日よりニュー東宝シネマほか全国東宝洋画系にてロードショー

今回もきっちりクローネンバーグの世界

きみの見ている世界とぼくの見ている世界は違う。デビッド・クローネンバーグの映画を一言で説明するとすればこうなる。主観的世界と客観的現実の衝突をテーマに映画を撮りつづけて30年。クローネンバーグも同じ作業に没頭する職人よろしくいつの間にか枯淡の域に達しつつある。頭も爆発せず、腹にバギナもできない最近のクローネンバーグ映画を地味だと感じる向きもあるだろうが、そこは心のゆとりで名人の筆先──ミランダ・リチャードソンの微妙な演技とかタイトル・バックの壁紙の美しさとか──を楽しんでいきたいものである。

今回新たな現実を見いだすのはシャツの重ね着がキュートな中年男スパイダーである。スパイダーは一冊のメモ帳を持ち、そこに自分が少年時代に目撃したことを書きつけていく。だが記憶は決まったものではない。記憶は暗示や錯誤からたやすく捏造されてしまう。人間は悪魔主義者に幼児虐待されたことも、UFOにアブダクトされたこともたやすく思い出してしまうのである。記憶は過去を作る。現在=現実はその過去の上にのっかっている。自分の過去が信じられなくなったら、何が信じられるというのか? そのときスパイダーが味わう現実崩壊は、これまであまたのクローネンバーグ映画の主人公を襲ったのと同じものなのだ。

(柳下毅一郎)

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