こころの湯 : 映画評論・批評
2001年7月2日更新
2001年7月7日よりシャンテ・シネほかにてロードショー
北京の銭湯が舞台。人情味あふれるドラマ
癒し系映画を連想させる“いかにも”のタイトルに、「またか」と引いてしまう人も多いかもしれない。確かに、下町の銭湯を舞台にした人情悲喜劇だが、ここには辛い現実も描かれている。土地開発のあおりを受けて、やがてやってくる立ち退きの危機。そして、いつの世も変わらぬ親子の問題だ。
主人公ターミンの気持ちが、痛いほど分かる。銭湯を営む親父や知的障害を持つ弟を心のどこかで恥ずかしく思い、故郷から遠く離れた町で職に就いている。例え父親の後を継ぎ、家族と平穏に暮らしても、これから歩まねばならない自分の人生の方がずっと長い。将来を考えれば当然の決断だったが、久々に戻ってきた実家で、銭湯の手伝いをすることになり、人情味溢れた空間で汗水流すのも、悪くないと思い始める。疲れた都会人にとっては直さらだ。ターミンの心が揺らぐくらい、銭湯に集まってくる人々の表情は輝き、無垢な笑顔は美しく、疲れた心を和ませてくれる。
この映画は、まさに北京の今を描いたそうだ。日本でも銭湯が幅を利かせていた頃、『時間ですよ』のような傑作ドラマが生まれたもの。銭湯文化の衰退と共に、中国でもこののような心温まる作品がもう作られなくなるのでは? と考えると、ちょっと寂しい。
(中山治美)