「どこまでが自分なのか?」スキャナーズ neonrgさんの映画レビュー(感想・評価)
どこまでが自分なのか?
『スキャナーズ』は一見するとB級的な特撮映画に見えるかもしれませんが、観終えてみると「存在とは何か」「自我はどこまで自分なのか」という不穏な問いを突きつけてくる作品でした。
物語は超能力者同士の対決を描きますが、主人公は冒頭から無垢な善人ではなく、見知らぬ老人を攻撃したり、ヒロインの恋人が死んだ際にどこか安堵の表情を見せたりと、人間的な弱さや曖昧さを抱えています。敵役が兄弟であることが明かされる構造も相まって、善悪の境界は最初から崩れているのです。
ラストは主人公が敵を倒したかのように見えますが、実際には「融合」してしまったと解釈するほうが自然だと思います。目の色は主人公、声は敵という演出は、勝敗よりも「自己同一性の喪失」を示唆しており、そこにホラーとしての恐怖が潜んでいます。人は一時的な共感や一体感を求めることはあっても、完全な融合は独立した精神の消滅を意味する――その恐ろしさがこの作品の核だと感じました。
また、この「融合の恐怖」は、共産主義や全体主義的な共同体のメタファーとしても読むことができます。自我を共有することが一瞬の安らぎになる一方で、解けなくなれば破滅へと転化する。その両義性がホラー性を強めています。
クローネンバーグはやはりホラー監督としての軸足を持ちながらも、そこに存在論的なテーマを忍ばせています。『ザ・フライ』や『ヴィデオドローム』にも共通する「境界の溶解」を、ここでは超能力バトルの形で提示している。B級的特撮の楽しさと、哲学的ホラーとしての深みが奇妙に融合しているのが、この映画の魅力だと思いました。
鑑賞方法: Amazon プライムビデオ HD画質
評価: 80点
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