劇場公開日 1984年4月

「トニーは教養が無く、猜疑心が強い」スカーフェイス 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0トニーは教養が無く、猜疑心が強い

2024年1月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

映画の前半では、主人公トニーがマフィアとして成り上がっていくサクセスストーリーが描かれている。彼は上昇志向が強く、持ち前の度胸や判断力でリスクを取って、金と権力を手に入れる。しかし、金と権力を手に入れた後半からは落ち目になる。元々粗暴で傲慢、猜疑心の強い性格だったが、よりその傾向を強めるようになる。周囲の人間にも強く当たるようになり、徐々に人が離れていく。

おそらくトニーは、金と権力を手に入れる過程が楽しかったのであって、それらを手中に収めてからは、熱中できるものが無くなった不満が根底にあるのだろう。熱中できない不満はあるが、権力はあるので、周囲に自分の苛立ちをぶつけるようになったように思える。読書でもスポーツでも何でも良いので、趣味を持てていたのなら、周囲に当たり散らすことも無かったように思える。つまり、教養が無いから、金を稼ぐ以外の楽しみを人生に見出だせていないのだろう。妻のエルヴィラからも、トニーは下品な言葉しか言わず、金の話しかしないと呆れられている。

トニーは、妹に対する独占欲が異常に強い。他の男との接触を許さないなど、異常な執着を見せている。ジーナを目の届く範囲に置いておかないと、自分の元を離れていってしまうのではないかという不安があるのだろう。彼は周囲の人間に対する猜疑心も強いが、妹に対する独占欲と根は同じだと思う。これらのことから、彼は周囲に信頼できる人間がいない環境で育ったという想像がついてしまう。

マフィアの成功と転落のストーリーとして、傑作と言える映画だった。

根岸 圭一