セッション9 : 映画評論・批評
2002年6月17日更新
2002年6月22日よりシネマスクエアとうきゅうほかにてロードショー
アスベストの粉塵の中で封を解かれる、近代の闇
人が死ねば埋葬されるように、役目を終えた建物は撤去される。あるいは……廃墟になる。ここ数年、廃墟をテーマにした本や写真集が異様に売れたり、ネット上に廃墟サイトが次々と現れたり、“廃墟系”ブームは深く静かに進行中。で、この映画は、マニアの間では知らぬ者なき実在の巨大廃墟、ダンバース精神病院を舞台にしたスリラー。
19世紀、マサチューセッツ州に建てられたこの病院は最盛期には7000人もの患者でひしめいたが、18年前に閉鎖。以後、上から見ると巨大なコウモリに見える異様のまま放置されている。映画はこの空間を活用し、アスベスト除去のためにここを訪れた5人の作業員たちの内面と、病院に封じ込められていた暗い記憶を交錯させていく。
5人の男たちはみなワケありだが、やはり主役は廃墟そのもの。ロボトミーやショック療法など拷問同然の治療が、近代医学の名の下に行われてきた事実。古い診療(セッション)テープと共に、この空間自体にも患者の恐怖が浮遊している。アスベストの粉塵にまみれて封を解かれる、近代の闇。そういえば「ケロッグ博士」の健康ランドも、コミカルだが不気味だった。あそこも今は廃墟だろうか……。
(田畑裕美)