丹下左膳・百万両の壺 : 映画評論・批評
2004年7月15日更新
2004年7月17日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
まあ人生いろいろあるけどノンビリ生きるぜ、の心意気
日本映画界にかつて山中貞雄という名の天才監督がいた。むろん僕も“天才”という言葉をやたら使ってはいけないとは思う。だけど、38年に29歳で中国戦線に病死した彼は正真正銘の天才である。本作は、現存するたった3本の山中作品のなかでも飛び抜けて笑える時代劇のリメイク。ふだんの僕にかつての名作を神聖視する趣味なんてないが、今回は正直、期待よりも心配の方が強かった。なにしろ世界でいちばん好きな映画の1本なのだから……。
で、結論から言えば――文句を言えば切りがないにしても――なかなかいいじゃん、と素直に思えた。何といっても、かつての日本映画にあった大らかさが再現できてるところがいい。まあ、人生いろいろあるけど、ノンビリ生きるぜ、といった心意気が物語の隅々からうかがえる。
たとえば、丹下左膳(豊川悦司)と女(和久井映見)がケンカして、オレは絶対にそんなことヤラネーぞと左膳が叫ぶショットの次に、絶対にヤラネーはずのことを彼が嬉々としてやってるショットに切り換わる笑いの呼吸をこれでもかと反復させる快感! 何を細かいことを、などと言ってはダメ。そんな細部の積み重ねが真の意味での“面白さ”を築きあげることを確認すべく、DVD化された山中版もぜひ!
(北小路隆志)