歓楽通り : 映画評論・批評
2003年3月1日更新
2003年3月1日よりシネマライズほかにてロードショー
ある意味、ルコント映画の集大成
戦前のパリ、とある娼館に生まれ育った男プチ・ルイと、娼婦マリオンの物語。といっても、2人は恋仲ではない。プチ=ルイはさえない小太りの中年。マリオンはうら若き美女。しょせん高嶺の花なれど、あなたこそ運命の女、お慕いします、尽くしますと、プチ=ルイは見返りも求めずマリオンの幸せのために奔走する。彼女の恋人さえ探しに行く……。
なんともマゾヒスティックな愛の形。まるでルコント版「春琴抄」? 佐助がお琴を、谷崎が松子夫人を「あなた様」と崇拝したように、ルコント映画も常にミューズを求める男を描く。娼館の中だけで育ち、「いつか運命の女に出会って、その人を幸せにしよう」と夢見るプチ=ルイは、いつか「髪結いの亭主」になろうと夢見る少年に似ているし、見返りを求めずただ彼女を見つめていたい点では「仕立て屋の恋」に重なる。
その意味で、この映画はルコントの集大成とも思えるのだが、性的代償は求めないから、プチ=ルイは大人になってもプチのまま。マリオンは王子さまを待つ薄幸の少女。なにやら<東洋の宮殿>という名の娼館を舞台にした“おとぎ話”めいている。ルコントの意識は谷崎より荷風ばりの、白粉舞い人情漂う「歓楽通り」の再現にあったのかもしれない。
(田畑裕美)