「結局彼は何者であったのか」パフューム ある人殺しの物語 s_eyesさんの映画レビュー(感想・評価)
結局彼は何者であったのか
これはなかなか…予想以上。
見応えがあった。飽きない。
お話として、物語としてよく完結ている。最初に主人公の嗅覚のお話、次には求める香りを見つけ人を殺し、香りの保存方法を発見、美しい少女に手をかけ続け、完成した香水とともに主人公は消える。美しい映画だった。汚いシーンや気持ちの悪いシーンですら美しい。
嗅覚がテーマであり、肉体的な接触がなくとも官能的に見えてしまう。主人公はただ嗅覚にのみ執着し、人を殺す事に対し違和感を覚えず、罪は知らぬ間に積み重なっていくが、その眼の異様な輝きは変わらない。
何が一番美しいかといえば、完全に主人公だろう。あまりにも無垢。人の常識を超えた行為を黙々と続けていくが、その影はあまりにも美しい。この主人公の不思議な性質が物語を面白くする。
そんな特殊な力を持つ主人公は、最後は「愛」の前に敗北する。あんなに嗅覚にこだわっていた彼が、愛?この完結の仕方に、私は、ちょっと納得がいかないのだが…。色んな解釈の仕方があるのだろう。
「自分の欲求にのみ正直だった男がやっと愛に目覚めた」のかもしれない
「欲求は愛だった」のかもしれない。
「結局人間なんてそんなもんで神の力を得ようとも陳腐な結末がお似合い」なのかもしれない。
どんな見せ方をしたかったのかはわからない。けど、私には、主人公が普通の人間になってしまったのがなんだか退屈だった。
最後に、アランリックマンが主人公にひざまずくシーンがとても印象的だった。主人公はなんとも不思議な目で彼を見ている。聴衆は主人公ではなく、香水のついたハンカチを追う。
主人公にあんなに執着していた男すら平伏すのだ。結局、主人公は「自分」を「自分」として見られる事がなかった。
「結局自分は何者でもなかった。」
語られずとも伝わって来る物語、映像の作り方。ぞっとする裏側に主人公の心理が沢山つまっていたと思う。