狼少女 : 映画評論・批評
2005年12月6日更新
2005年12月3日よりテアトル新宿にてロードショー
昭和の“見せ物小屋”の扉の向こうにあるものは…
筆者のような“口裂け女”世代には放っておけない映画である。今にして振り返ると、あんな怪物が下校途中の道に出没するのではないかなどと本気で恐れおののいていた自分が、何ともいじらしくて微笑ましい。幽霊やUFOは本当に存在するのだと根拠なく確信していた昭和のあの頃。というわけで筆者には、「狼少女」の主人公、明クンが他人とは思えなかった。
明は地元の神社にやってきた見せ物小屋の怪奇な出し物“狼少女”に興味津々だが、中に飛び込む勇気を奮い起こせない。映画はそんな明と、都会から転校してきた美少女、“狼少女”の正体と噂される陰気な女の子の交流を描き、終盤に意外な真実を明かしていく。
その真実は見せ物小屋の扉の向こうに横たわっている。口裂け女よりも地底人よりも衝撃的な“現実”というものの過酷さ。かくして少年は夢見る幼心を喪失し、その引き替えにほんのちょっぴり成長を遂げていく。
少年少女の日常をきめ細やかに綴ったこの映画は、ほのぼのとしたユーモアで観る者の心を和ませながらも、学校で、家庭で、それぞれの孤独と闘う彼らの姿を見すえている。その手際よくも真摯な演出&脚本に、筆者は舌を巻いた。今や口裂け女の代わりに本物の殺人鬼がうろつく時代と嘆く人にも、黄昏色にきらめく本作のひたむきさは一服の清涼剤になるだろう。
(高橋諭治)