「キットは朝鮮帰還兵だけれど明らかにベトナム戦争を意識して作られたのだろう」バッドランズ たあちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
キットは朝鮮帰還兵だけれど明らかにベトナム戦争を意識して作られたのだろう
1973年製作のリバイバルで日本初公開。1958年に実際にアメリカで起きた若者が連続殺人を犯す事件をベースにしていてハーバード大学哲学科を首席で卒業したテレンス・マリックの初監督作品である。後に「地獄の黙示録」のウィラード大尉役でブレイクするマーティン・シーンがゴミ収集員をしていて見染めた15歳の少女の父親を撃ち殺し、二人で逃げながら2か月間でさらに10人を殺す「ジェームズ・ディーンに似た殺人犯」役で主演しており、日本では「地獄の黙示録」のヒットにあやかり「地獄の逃避行」という邦題でテレビ放送されたそうだ。驚いたのは私が映画にはまる原点にして1976年キネ旬1位となった「青春の殺人者」との類似である。千葉県での実話をベースに父親を殺して店に火を点けて逃げる順とケイ子がこの二人に重なり、しかも長谷川和彦は「ジェームズ・ディーンをやらないか?」と言って水谷豊を口説いたという話は有名なので暗闇に燃えるホリーの家を観ながら「パクリ疑惑」がどんどん膨らんだ。一緒に観た友人が指摘したように主人公は朝鮮戦争の帰還兵らしいのだが、その説明(というか言い訳)を一切せず劇中キットがホリーに「アイスキャンデー食う?韓国にこういうのがあったよ」と尋ねる一言にとどめているのがいさぎよい。人殺しが当たり前になる戦場より帰還後のフラッシュバックに襲われる平穏が辛いであろうことは想像に難くない。今回の鑑賞を前に名作「天国の日々」も配信で見たのだけれど、やはり少女のモノローグで進行させるのがテレンス・マリックの持ち味か。隠れて付き合っていた罰にホリーの愛犬を撃ち殺す親父があまりにひどくその後の二人の行動を受け入れやすくしている脚本が上手い。