「不思議な清涼感に満ちた映画だ!」バッドランズ 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
不思議な清涼感に満ちた映画だ!
この映画は1973年に製作され、我が国では「地獄の逃避行」として知られていた。主人公を演じたマーティン・シーンのその後の出演映画のタイトルの影響だろう。
ロードムービーの傑作と呼ばれることがある。ただ「ロードムービー」という言葉は、川本三郎さんに教えていただいたように、1984年のパリ・テキサス以降に、ヴェンダース監督が自作について呼び始めた名称だ。それに先駆けたということだろうが、ヴェンダースの映画が、ロードムービーの発展とも考えられる「パーフェクトデイズ」でもそうであるように、たとえ移動しても、さしたることが起こるわけではなく、その人の内面で起きる変化をロケ映像中心に忠実に追ってゆくのに対し、この映画では、逆に、起きたできごとが即物的に語られてゆくのみで、心の内を推し量ることはむずかしい。
1959年に実際に起きた事件によるこの映画のストーリーを述べる必要はないと思うが、音楽の使い方にも目覚ましいものがあった。
予告編でも流れているカルミナ・ブラーナで有名なオルフが編曲したGassenhauer(街の歌)が注目された。マリンバと打楽器などの演奏が素朴で、主人公の二人に寄り添っていた。私の大好きなナット・キング・コールの歌う「A blossom fell」(花は散ってしまった)がラジオから流れて、二人が踊るところも良かった。何と言ってもエリック・サティの「梨の形をした三つの小品」、エンディングロールにはグノシェンヌと書かれていた。この映画の不条理、シュールレアリスムにもつながるような性格をいちばんよく表していたように思う。
もちろん、テレンス・マリックによる作品そのものが素晴らしいことは言うまでもない。殺伐としたストーリーが、アメリカ中西部の広大な荒地(バッドランズ)を背景に、これ以上ないほど静謐に描かれる。是非、劇場で、ご覧いただきたい。