モンスター(2003) : 映画評論・批評
2004年9月15日更新
2004年9月25日よりシネマライズほかにてロードショー
モンスターとはヒロインのことではない
美貌を犠牲にした体当たり演技で受賞というオスカー・セオリーを地でいった、シャーリーズ・セロンの壮絶演技で話題の本作。全米初の女性連続殺人犯の話といってもレズビアンの恋人との純愛物語にでもなっているのではないかとさして期待もせずに見に行ったが、違った。「モンスター」はセロンのことじゃない、むしろ恋人、いや、彼女が加担する「社会」そのものに思えた。「モンスター」が「モンスター」を生む。この映画は、そんな悪の連鎖を通して「アメリカの闇」をあぶり出している。
悲しいのは、極貧家庭でマチスモの被害者だったヒロインが、ハイウェイ売春婦として自らを守るためにカウボーイのように振る舞うことだ(原題の“Monster”の書体は“Marlboro”のロゴと同じだ)。恋人が同性なのも初めて自分を認めてくれたのがネコっ気のある娘だったからに過ぎず、彼女のためにマチスモを加速させて加害者に転じていく過程が痛ましい。実在したアイリーン・ウォーノスの生涯はもっと複雑なものだったらしいが、それを知りたければドキュメンタリーを見たほうがいいだろう。この映画が描きたいのは、今も何万といるか知れない、見えないアイリーンたちなのだろうから。
(田畑裕美)