「全編が映像の光輝に満ちた比類ない戦争映画」シン・レッド・ライン 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
全編が映像の光輝に満ちた比類ない戦争映画
「戦争映画」というジャンルで括るからいけない。すべての評者間の混乱はそこから生じている。
本作は第2次世界大戦におけるガダルカナル島の日本軍対米国軍の戦闘を描いている。だから戦争を舞台にした映画には違いない。
しかし、あまりにも書割的な米国軍人の出世願望や、兵士の妻が故郷で別の男をつくってしまった話とか、やたら戦闘に有能な脱走兵と上官とのかみ合わない世界観とか、「戦争映画」ファンにしてみたら、激怒するしかない、ろくでもない欠点だらけの映画だ。
それに勿体ぶったモノローグにしたって、人間の小ささに比し自然は大きく永続していくとか小学生並みの思想だし…はっきりいって、いいところがほとんどない映画なのである。映像を除いては。
この映画の全編が、とにかく美しい。
背高い草に覆われた丘で、トーチカ攻略に匍匐前進する兵士が触れるとあわてて葉を閉じるねむの木、川岸の砂地にきりりと屹立する苗、戦闘で巣から追い立てられる雛たち…それらの美しさに息をのむ。
兵隊が渡っていく川も、波を切って進む軍艦も美しい。日本軍を掃討するシーンは躍動感に満ちているではないか。
これらを鑑賞し、いわば〈映像的現実〉を体験するためにだけ、この映画は存在する。それは映画本来の使命を全うすることでもあろう。駅に滑りこむ汽車の映像に熱狂したのが、映画のオリジンだった。
戦争の史実や反戦の理念、人間ドラマ…そんなものを本作から引き出すのは、「フォレスト・ガンプ」から人生の教訓を引き出すのと同じくらい馬鹿げたことだ。
だが、それだとBGM映像の環境映画とどこが違うのかということになりかねない。本作はハリウッド映画的枠組みと映像美が最低限でもバランスを取った、稀有な一作ということになるかもしれない。