「1940年代「フィルム・ノワール」映画及び悪女ものの傑作であり代表作として名高い本作。期待した程にはのめり込めなかったが、ビリー・ワイルダーの話術の巧みさにはやはり感心させられる。」深夜の告白 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
1940年代「フィルム・ノワール」映画及び悪女ものの傑作であり代表作として名高い本作。期待した程にはのめり込めなかったが、ビリー・ワイルダーの話術の巧みさにはやはり感心させられる。
①監督4作目ということで1950年代に全盛期を迎えるその演出力がやっと花開き出したところ、というところかなァ。翌年『失われた週末』で沢山の賞を取っているし。でも『サンセット大通り』(1950)に比べるとまだまだという感じかな。②「松葉杖」の映画である。冒頭のタイトル→キャスト→スタッフと紹介される間に松葉杖をついた男が画面の後ろから前に歩いてくる。『Double Indemnity』(倍額保証保険)とは関係無さそうだし、沢山あるこの映画の説明文・批評・解説に「松葉杖」のことは特に書かれていなかったしで、“?”と思っていたが、犯人が“完璧!”と自画自賛していた計画にキースが初めて綻びを見つけたのが「松葉杖」だっので“成る程!”と唸らされた。映画の冒頭で既にトリック崩しのタネを見せていたとは。さすが演出に遊び心のあるビリー・ワイルダーである。③回想形式で主人公(或いは事件の探偵や保険調査員)が犯罪の初めから終わりまでを辿っていく手法は『市民ケーン』の手法を「フィルムノワール」が取り入れてから一般化したとのことだが(この辺りの事情は山田宏一著の『映画的なあまりに映画的な美女と犯罪』(廃版になったかしら)に詳しい)、この映画もその一つ(他にも『郵便配達は二度ベルを鳴らす』『殺人者』『farewell, my lovely』等々、そして極めつけ死者が回想する『サンセット大通り』)。④1930年代にはコメディ映画での主演男優としてクローデット・コルベールとのコンビで人気を博したフレッド・マクマレィが女の色香に惑わされて殺人を犯し自滅する男、同じく戦前はコメディ映画・恋愛映画・人情映画で人気を博したバーバラスタンウィックが稀代の悪女を演ずるということで別の意味で話題になったのでしょう。で、そのバーバラ・スタンウィックですが、ルックス的にあまり好きなタイプではないのでフレッド・マクマレィがあんなに直ぐに魅せられるのが共感できない。それで予想していたほどこの映画にのめり込めなかったんでしょうね。でも流石に実力のある女優さんだけあって冷酷・非情で計算高いな女ぶりは凄みはありました。横で殺人が行われているのに表情ひとつ動かさない冷血ぶり。初めて会った男に「今まで日光浴していたの(つまり、真っ裸だった、言って男の欲情を誘っているようなもの)」とアッケラカンと言ったり、着替えた後階段を降りてくる時に先ず脚と足首に付けいているアンクレットチェーン(最初は娼婦の間で流行ったものらしい)を映し出すカメラ。男は直ぐにアンクレットチェーンに魅せられてしまう(足フェチか?)。フレッド・マクマレィは初めて屋敷を訪ねたのであり、バーバラ・スタンウィックもこの時点では罠にはまる男かどうかわからない筈だったので訪ねてくる若い男にいつもこんな風に迎え入れるだとしたら何と計算高い女!男に対しても必要以上に微笑みかけたり媚びたりするのではなく、値踏みするような目で見据えるだけ。巣にかかる男をまっている女郎蜘蛛のような女ですな。現代の感覚で言えば徹頭徹尾冷血非情な悪女でいて欲しかったが、最後マクマレィを撃った後生まれて初めて愛を知ったと言って死んでうくのは、当時のハリウッドとしては最後に改心するというのがなければ許されなかったせいでしょうね。犯罪者たちは映画の最後で必ず罰せられなければならない、という一種の倫理コードがあったのでしょうね。まあ、良し悪しかな。⑤E.G.ロビンソンは流石に上手い。軽妙な演技に終始しているようで、26年間の仕事がもたらした経験・知識(その裏にある人間の欲望・愚かしさ等への洞察力)の年輪を感じさせる貫禄が素晴らしい。