めぐみ 引き裂かれた家族の30年 : 映画評論・批評
2006年11月21日更新
2006年11月25日よりシネマGAGA!ほかにてロードショー
11月25日より、シネマGAGA!ほかにてロードショー
横田夫妻の感情に焦点を当てた作り
1977年、新潟県の日本海側の町から13歳の少女が突然姿を消す。まるで“神隠し”にでもあったかのように……と本作で少女の父親は述懐するが、その後の長い歳月、娘の両親である横田夫妻は深刻な喪失感とともに日々を送り、娘が北朝鮮によって強制拉致された事実を知ってからは、敢然としてある種の政治的な活動に従事することになる。自分たちの声を世界に届かせ、問題の解決というより、娘の奪還を実現させるために……。
この長編ドキュメンタリー映画は、そんな横田夫妻の活動を中心に拉致事件以後の30年もの歳月を浮かび上がらせる。これはアメリカ人&カナダ人夫妻の作品だからこそでもあるが、日本と北朝鮮両国のあいだでの政治関係や歴史背景などを括弧に入れ、特異な事情から娘を失った両親の痛みや悲しみ、怒りや奪還へ向けた執念に焦点を当てる作りになっていて、多忙ゆえの苛立ちからか口論じみた会話を交わす夫妻の姿などテレビでは見ることのできないプライべートな映像も目撃できる。映画の中で最大の驚きは、小学校の卒業式でのめぐみさんの歌声を録音したテープが再生されるくだりだろう。その歌声は、あまりに美しくまた大人びてさえいるのだが、同時に歳を重ねることなく10代の少女のままであり続ける。横田家の時間はあの事件を機に流れを止め、その時間の再開に向けての彼らの活動や生活が今この瞬間も継続されるのだ。
(北小路隆志)