「なにげに深い映画です」マルコヴィッチの穴 あんゆ~るさんの映画レビュー(感想・評価)
なにげに深い映画です
1999年製作のアメリカ映画。112分。「シークレット・サービス」の悪役がすごかった怪優ジョン・マルコビッチがそのまんまクレジットにはいった、かな~り風変わりなコメディ映画でございます。
売れない人形操り師の妻帯者の男は、とうとう就職することを決心。あっけなく採用された会社が、なにをしているのか分からない会社で、そこで洞窟のような穴を見つけます。恐る恐る中にはいると、なんとそこは15分間だけマルコビッチの頭の中に入っていける穴だったのです。
これを妻に体験させると、心に密かに隠していた性同一性障害の悩みが解消される。男は、これで金儲けをしようと、社長に秘密にして広告を出すと、行列ができるようになる。そこからあれよあれよと色々な事がおこる展開となっております。
もし、あの人になれたら?
こんな誰もが抱える(はずの)願望は、哲学的には「どこまで他者を理解できるのか?」なんて命題にもつながります。
本作の場合は、そんな願望にたいしてご託を並べず、映像と特撮の力であっという間に現実にしてしまいます。惨めな人生をたった15分でいいから捨てて、憧れのハリウッド俳優になりにいく。
本作は、そんな願望をもし叶えられたら人はどうなっていくのだろうか、という問題を実験してみた作品といえるのではないでしょうか。それでも、これだけでは本作の魅力が表せていないとも思います。なにやら、つっかえのように、本作はそれ以上の奥深い力があるのです。
性同一性障害を抱えた女性が、穴を通して、自分の本当の性に、そして本当の幸せが何なのかを悟る。本作は、あり得ない話を展開させることで、社会生活を漠然とすごしていくうちに封じ込めていく心の葛藤をうずかせるような映画です。
だからどうしたという感想はもってしまうかもしれませんが、それでもなんとなく心が軽くなっている、本当に奇妙で不思議な作品でした。