劇場公開日 2025年8月22日

リンダ リンダ リンダ : インタビュー

2025年9月2日更新

ずっとあの時の気持ちのまま生きている――20年ぶりの再会で語る思い出、若い世代へのメッセージ

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山下敦弘監督が2005年に製作した、文化祭で「ザ・ブルーハーツ」のコピーバンドをすることになった高校生たちの奮闘を描く青春映画「リンダ リンダ リンダ」4Kデジタルリマスター版が公開された。

2005年の公開当時を知る映画ファンにとっては、高校生を演じた4人のひたむきな姿に自身の青春時代を重ねて胸を熱くする作品であり、当時を知らない若い世代はちょっとレトロでアナログな“平成のかわいさ”が詰まった作品として、新鮮な気持ちで楽しめるだろう。「ずっとあの時の気持ちのまま生きているような気がする」と話すぺ・ドゥナを筆頭に、前田亜季香椎由宇関根史織(Base Ball Bear)というメインキャスト4人が20年ぶりに集合し、思い出話に花を咲かせた。

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久々の顔合わせに「大好きな作品なので、またこうして4人で集まれたのが、本当にご褒美みたいな時間」と前田。香椎は「4Kリマスターがなかったら集まれなかったのかと思うと、感慨深いというか、良い機会をこの時代が作ってくれた」とデジタル技術の進歩に感謝する。

今や韓国を代表する国際派女優のぺ・ドゥナにとっては、今作が海外で活躍するきっかけとなった作品だ。「『リンダ リンダ リンダ』の再上映は、私にとって最近で一番嬉しい知らせでした。私の周りの多くの方が、この作品が大好きだと言って下さるのですが、映画館で見逃してしまった方、DVDでしか見ていない方もいて、また、韓国ではDVDもなかなか手に入らないので。今回4Kリマスター版で、上映していただけて嬉しいです。この作品は世代を超えて、そのクラシカルな部分でも情緒が保たれている作品だと思うので誇らしい気持ちです」

「実は、4人が再会することにちょっと緊張していました。当時の撮影中に一緒に遊んだことなど、特別な思い出として残っていますが、私は20年という月日の中で海千山千というのでしょうか、いろんなことを経験して、垢のようなものが染みついてしまったかもしれない……そんな姿を見せるのは嫌だな、そう思うくらい私にとって本当に大切な皆さんなんです」と旧友たちと日本での久々の再会を喜んだ。

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空気人形」での来日時がぺ・ドゥナと再会した最後だったという関根。「その時に『また会える?』って聞かれて、きっとお互い仕事を続けていれば、 また会えると思う、って言ったのを覚えています。その後、なかなか会えませんでしたが、今回こうやって再会できてうれしいです」と振り返る。

多くの媒体からの取材を受け、休憩時間を逃してしまったぺ・ドゥナが持参したチョコレートをつまみながら4人が談笑する場面も。20年という時間が経っても、今風の女子会ではなく、部室でのたわいのないおしゃべり――そんな雰囲気で当時を回想し、作品について語ってくれた。

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以下、一問一答

――4K版で、改めてあの頃の自分たちを見て、どのような感想を持ちましたか?

香椎:いい時間をもらっていたな、と改めて感じました。撮影の時間はもちろん、海外の方と一緒にお仕事する機会が初めてで、すごくいい刺激になりましたし、ご一緒したのがぺ・ドゥナさんで本当に良かった。

関根:私はバンドマンなので、映画に出るという機会自体がすごく特別なことで、それだけでもありがたかったです。自分の演技がうまくいかない可能性だってあったはずなのに、3人、そして監督やスタッフの皆さんのおかげで何もかもがうまくいって。山下さんが“奇跡の一本”と仰っていたその通りの映像になっていました。

前田:本当にその時にしか出せない空気感や4人のあのときの良さが収められていて、映画って素敵だなと思いました。あと、ブルーハーツがずっと色褪せないこと。今でもカラオケ行くと歌われて、20年経っても、盛り上がれるというすごいバンドだなと思いました。

ぺ・ドゥナ:女子高校生を演じましたが、今もその気持ちは変わっていない感じがするんです。未だに分別がつかない、ちょっと純粋な気持ちで生きたいと思うこと。ああ、若い時代の、美しい青春だったな、なんて思うよりも、ずっとあの時の気持ちのまま生きているような気がします。

驚いた点は、私たちは若く経験も浅かったのですが、よい演技をしようという気持ちではなく、いかにして楽器を弾いて、いかに歌うか、そして文化祭を成功させるかということだけに悩んで、演技はせずに、朝から晩まで練習していたんです。

今、私は映画に主演したり、俳優たちの先輩的な立場にもなり、作品を引っ張っていかければいけないし、映画も成功させなきゃいけないし、赤字を出してはいけない、現場でそんなことを考えながら撮っているんです。でも、この当時はそういった悩みは一切なく、本当に純粋だったと思います。

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――20年という時代を経て、この作品を通して何か変化や驚きを感じましたか?

香椎:この20年で色んなものが変わったなってしみじみ思いました。折り畳み式の携帯電話、カセット、MDをぶちまけるシーンだったり。今はすごいスピードで動いてる時代を生きているので、もう少し丁寧に生きたいな、そう感じました。 大人になるとますます流れる時間が早くなるので、子供の時のゆっくり時間が流れる感覚を取り戻したいような。そんな時間の流れ方もこの作品で映されていて、時代の流れと作品がマッチしてると思います。

関根:好きな男の子から携帯じゃなくて、自宅の電話に連絡が来るシーン、あれはすごく懐かしい気持ちになりましたね(笑)。ミュージシャンとして好きな場面は、部室の壁にたくさん貼ってあるポスター類です。今は権利の問題などで使えないものも多いそうなのですが、かなり面白いラインナップなので、音楽好きには注目してほしいです。

前田:職員室のコピー機を使って、出てきた譜面をみんなで見ながら、ただただ歩いていくシーンが好きですね。今はすべてデータの時代なので、紙のアナログな感じも当時の何気ない日常でよかったな、と思います。

ぺ・ドゥナ:いろんなかわいさが残っている時代でしたよね。わたしも好きな音楽をカセットテープに録音して、そのテープを友達にプレゼントしたりしていました。私たちの世代だとこれが自然なことでしたが、今の世代の人たちは、驚くようですね。おそらくSFのような感じで不思議に受け止められるのではないでしょうか。

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――それぞれのキャリアを積んだ今、当時の自分にかけたい言葉は?

香椎:とにかく楽しみなさいね。ただそれを伝えたいです。当時の私にとって3つめの出演作品で、そろそろ仕事と遊びと別々に考えなければならない時期でもあったのですが、こんなに楽しい作品に出会ってしまって、ただただ楽しいばかりで。でも、この作品はそう感じることが正解だったと思うので、この作品に関して私に言えるのは、そのまま自分でいて、みんなと仲良く過ごせたのが、いい形になっているよ、と伝えたいですね。

前田:すごくいい時間を過ごしているから、そのまま、そこで感じたままでいて。こんな現場、このあとなかなか出会えないぞ! って。空気感も良いですし、特別な現場でしたね。

関根:私は出演が決まって、当時の自分の周りの人にものすごく心配をかけたと思うんです。あいつ演技できんのか? って思われただろうし、自分も不安でした。どんな映画になるかもわからないし、自分は音楽でデビューする前だったから、今後の自分のキャリアもどんなものになるかわからないうちに、かなりやみくもに手を伸ばしたっていう感じだったので、20年前の不安だった自分に対して、絶対大丈夫だよって声をかけたいですね。

ぺ・ドゥナ:あなたはうまくやったよ、いい選択だった。そう言ってあげたいですよね。歌を人前で歌うことなどできなかった私ですが、勇気を出して、日本に来て、上手く歌えなくても恥ずかしくないし、どん底を見せる勇気を出したから、いい選択ができた。と、当時の自分を褒めてあげたいです。今も、当時の自分から今の私がインスパイアされている、そんな気がするんです。

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――「リンダ リンダ リンダ」を初めて観る若い世代にメッセージをお願いします。

ぺ・ドゥナ:私は観客の皆さんが「リンダ リンダ リンダ」をどんな風に見てくださるのか気にはなりますね。とにかくありのままを見て欲しいと思います。見慣れない作品だな、ちょっと古いな、なんて思われたとしても、それはそれで構いません。

関根:「やって意味あるのかな」「別に意味なんかない」とか、「やりゃ、なんだって楽しいんだから」そういったセリフはすごくいいなと思うんです。

前田:なんでもない時間もキラキラしているっていることに気付くと思いますし、徹夜でみんなでドロドロになって、寝坊しちゃったり。それだってなんでもないこと。でも、意味のないことだっていいじゃん。ありのままの私たちをみてほしい、本当にそういう気持ちです。

香椎:今の子たちとは、時間の使い方が違うと思うんです。当時は待ち合わせするにも、携帯を持ってない子もいたけど、今はどうやっても会える、そういう環境で生きていると思うので。当時の高校生が、こんな風に時間を使ってた時代もあるんだよ、そこを見てもらって、何か感じるものを持って帰ってもらえたらな、と思います。

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