「フェイクニュースに込められた、涙ぐましい母への愛」グッバイ、レーニン! Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
フェイクニュースに込められた、涙ぐましい母への愛
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東西ドイツ統一 1990年 の歴史的激変の社会状況下、東ドイツの社会主義指導者として生き甲斐を得ていた母親に、精神的なショックを与えないよう孤軍奮闘する青年の涙ぐましい愛情を描いた良心作。第二次世界大戦以後のドイツ映画沈滞から、統一を経て客観的な視野に立ち、一方的な深刻さと暗さも薄れて、自由主義社会のユーモアも含まれたこの作品を観ると、ドイツ映画も21世紀に完全復活してくれると期待したくなった。
民主主義と資本主義の生活様式に変わっていく中で、主人公が旧東ドイツの食品・衣服・行事などを追い求め、失われる過去を再確認するところに、この映画の狙いがある。それは郷愁と云うより、自己形成の分析であろう。それを一途に母親を救うための行為で、さり気無くみせるところが巧い。
父がひとりで西側に亡命した家族の悲劇から、子供たちにその理由も自分の心情も正しく伝えなかった母の苦しみ、女を選んで妻子を棄てたと思っていた長女の父に対する接し方など、一見バラバラに見える家族の繋がりは良く視ると強い絆で結ばれている。家族の新しい統一の形を思わせる、繊細で自然な描写が素晴らしい。
仕事仲間が偽装の東ドイツテレビのニュース番組制作に協力するシークエンスがいい。かつての宇宙の英雄、今はタクシードライバーになっている元飛行士の関わり方もうまく処理されて、フェイクニュースが母を安静にさせる。なんと幸せな母親と想わずにはいられない。マザコン青年をここまできれいに頼もしく描けるのか、と感心至極です。
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