死霊のえじきのレビュー・感想・評価
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ゾンビを応援してしまう映画
まさか自分の人生においてゾンビを応援する日が来ようとは思わなかった。
ジョージ・A・ロメロのゾンビ三部作(話が繋がっているわけではない)と世に言われている作品群の三作目であるが、本作は一作目の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968)と二作目の『ゾンビ』(1978)とは決定的に違う部分がある。
何が違うのかと言うと、前二作ではゾンビというのは人間を襲う忌まわしいモンスターでしかなかったのであるが、本作ではゾンビに過去の記憶や感情らしきものが残っているということが描かれ、劇中でゾンビとの共生が模索されるのである。
爆発的にゾンビが増殖し、人間の数とゾンビの数が逆転してしまった近未来。
主人公の女性科学者サラは数人の仲間と共に地下施設に立てこもり、どこかで生き延びているはずの生存者を探す日々を送っている。
地下施設には横暴で差別的な軍人グループもいて実質的な支配権は彼らが握っている。
施設内にはサラの他にも二人の科学者がいてゾンビ化現象の謎を解明するため研究を続けているのだが、そのうちの一人ローガン博士は生捕り(?)にしてきたゾンビの中に比較的おとなしい個体を見つけてバブという名前をつけ、ゾンビを飼い慣らすという大胆な実験を始めるのだ。
バブは生前軍人だったらしく、施設内の軍人グループを見ると敬礼したり、弾丸を抜いた銃を渡すとたどたどしい手つきで撃とうとしたりもする。
さらには、常に身近に接していてエサ(博士がどこかから入手した人肉であり、このことが終盤物語が大きく動くきっかけとなる)を与えてくれるローガン博士に対しては襲いかかるような捕食行動を取らなくなるのだ。
過去の記憶が残っていて感情らしきものが芽生えた存在。
それってゾンビなの?ってこちらとしては戸惑ってしまうのだが(笑)、とにかくこのバブというゾンビがすごく可愛くて憎めないヤツなのである。
ヘッドフォンから流れてくる音楽に目を剥いて驚いたり、本を渡すと必死でページをめくろうとしたりして幼児のようなあどけなさがあるのだ。描写としてはゾンビと言うよりはフランケンシュタインの怪物に近い。
実際、バブを飼い慣らそうとするローガン博士は軍人たちからフランケン博士と揶揄されていたりする。
このようにゾンビを人間性の残る存在として描く一方で、人間たちの方は互いにいがみ合い常に揉めている脆い存在として描いている。
特にロメロは地下施設を牛耳る軍人グループを、白人以外の人種を見下し、武力で他人を制圧しようとする横暴で横柄な連中として批判的に描いている。
ロメロは前二作においてもアメリカの白人社会に対してどこか醒めた視点を持っていたが、本作においてもそれは顕著である。
物語の終盤、ゾンビ集団と軍人グループが戦うことになるのだが、観ている我々は思わずゾンビたちの方を応援したくなってしまうのだ。
軍人グループの冷酷非道な独裁者ローズ大尉とバブが一対一で対峙する!
負けるな、バブ!対決の行方や如何に!?
前二作においてゾンビは人間たちの浅ましさや愚かさをあぶり出すような存在だった。
それは本作でも同じなのであるが、前二作では人類の敵でしかなかったゾンビが、本作において初めて共生の可能性が示されたのである。
「敵をやっつける」より「敵を理解し、敵と共生する」方がテーマとしては深いのである。深いのであるが、「敵を理解し、敵と共生する」のがどんなに難しいことなのかは、今も世界各地で起こっている戦争や紛争が容易に解決しないことからもわかる。
そういう深いテーマ、複雑なテーマを選んでしまったために本作は娯楽作品としての明快さや面白さに今ひとつ欠けるきらいはある。
だが映画としての面白さを犠牲にしてでもロメロはゾンビを単純な人類の敵としては描きたくなかったのである。
ロメロの映画作家としての覚悟を我々は受け入れるべきなのだろう。
娯楽作品としては今ひとつ、などと言ってしまったが、本作には前二作をはるかに超えるレベルの唖然とするようなゴア描写が満載であり、ロメロのホラー監督としてのとんがった感性はいささかも鈍っていない。
どうかゾンビに興味がおありの方(笑)は、ジョージ・A・ロメロが世に放ったゾンビ・サーガ三部作を通してご覧いただきたい。
三部作を通して観ることで、互いにいがみ合う愚かな人間たちを見つめるロメロの冷徹な視点と、「恐ろしい敵だと思っていた相手のことを理解し共生の道を探る」という深いテーマが初めて見えてくるだろう。ただし、とんでもないゴア描写付きだけど(笑)。
ゾンビという哲学
ロメロのゾンビ3部作の3作目。本作において、ゾンビはもはや恐怖を煽る舞台装置を超えた哲学となった…。
ロメロのゾンビ映画特有の、人間同士の諍いが非常に荒々しく描かれています。あまりの胸糞悪さに少々嫌気がさすほど。暴君然とした大尉に、マッドサイエンティストといった濃いキャラクター達が内輪揉めを繰り広げます。ラスト、大量のゾンビの襲撃によりカタルシスは得られますが、それまでは結構しんどかったです。
ゴア描写の過激さは過去一と言える程。特殊メイクはトム・サヴィーニ。「ゾンビ」「クリープショー」等、他のロメロ作品でも素晴らしい仕事っぷりを発揮している彼ですが、本作における思い切ったゴア描写とアイデアの数々は、SFXの限界への挑戦状を叩きつけているかのようです。
本作におけるゾンビは、グロテスクな容姿や暴力、感染といった恐ろしさだけでなく、人間の醜さを暴き出す抽象的な存在として描かれております。「生ける屍」という一つの概念を投じることで物語が動き出す。これはロメロの発明に間違いないかと思いますが、本作においてはその点をとことん突き詰め、倫理を問い、議論を起こさせる哲学にまで昇華させています。
ゾンビは人類に対する罰なのだろうか?何をもって死と生を判断するのか?「人」たらしめているものとは一体何なのか?その多くに答えを見いだせずにいるからこそ、ゾンビ映画は面白いし、今後も作られ続けるのだろうと思います。
最後に、wikiに興味深い一文がありましたので転載します。
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7年前に制作された前作『ゾンビ』に引き続き、ダリオ・アルジェントと共同で制作する予定であったが、ヨーロッパの通貨に対して米ドルが高騰したため、アルジェント側からの協力が得られなくなった。単独で資金を調達することになったロメロは脚本を大幅に変更し、規模を縮小して本作を製作した。
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なるほど。多分本当にやりたかったのは後に製作された「ランド・オブ・ザ・デッド」のような作品だったのでしょう。しかし、規模を縮小したからこそ出来た演出、脚本は非常に優れたもので、私はこれで良かったんじゃないかなと思っとります。
はじめにゾンビありきでゾンビの方が人間より多い。ゾンビ映画の中でも...
はじめにゾンビありきでゾンビの方が人間より多い。ゾンビ映画の中でもストーリーが行き着くところ迄いっちゃったみたいな感じで、ゾンビ倒すじゃなくて捕獲して地下基地で飼い慣らす研究とか。最初から良い、脚本が凄いと思う。ラストは好きじゃなかったが総合的にかなり良かった。
バブが可愛い
敬礼するゾンビ
いくら何でもあの軍人たちは無いですよね(笑) それはさておき、その...
オブザ・デッドシリーズ完結編。 前作のアクション中心の話から、今度...
ゾンビ映画の系譜
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