子猫をお願いのレビュー・感想・評価
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【”Good Bye"女性であるチョン・ジェウン監督が、韓国の男性優位且つ高学歴偏重社会をシニカルに描きつつ、仁川の女子校卒の5人の女性の猫を介した絆と厳しい社会の中で懸命に生きる様を描いた作品。】
■テヒ(ペ・ドゥナ)、ヘジュ(イ・ヨウォン)、ジヨン(オク・ジヨン)双子のイ・ウンシル・イ・ウンジュテヒはソウルの隣市、仁川の女子高時代から仲良しの5人組。
彼女達は様々な事情で大学には行けず、テヒは下半身不随の詩人の男の詩をタイプライターで打ち、ヘジュはコネでソウル市の証券会社に入社するが小間使いの様にこき使われる日々、両親を亡くしたジヨンは祖父母と今にも崩れそうなボロイ家に住んでいる。陽気な双子・ピリュとオンジョだが、定職はない。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・チョン・ジェウン監督作品は、数年前に映画館で中山美穂さん主演の哀しくも美しい「蝶の眠り」を観て以来である。
と言うか、この監督は物凄い寡作なのである。
・今作では、冒頭、上記5人の女性が仁川の高校時代に楽しそうにしている所から始まるが、直ぐにトーンは彼女達の高校を卒業してからの、厳しい生活状況に移って行くのである。
・テヒは、無理解且つこれぞ、男性優位社会の象徴の様な父親に反発している姿が後半に映される。家族4人で食事に行った際の、女性店員に対する上から目線での注文の仕方や、テヒの母が、”私は、貴女と同じでいいよ。”という言葉から、テヒの家が父が支配する家庭である事が分かるのである。
・ヘジュは、ソウルの証券会社に入社した事を自慢しているようであるが、描かれているのは彼女が男性上司から小間使いの様にこき使われている姿である。
そして、彼女はテヒやジヨンを下に見ることで、自身のプライドを保とうするが、その姿は見ていて空しいのである。
・一番、可愛そうなのは両親亡きジヨンである。天井が落ちそうな貧しい部屋に祖父母と暮らしているが、ある日、家は崩壊し彼女は警察に拘留されてしまうのである。あれ程、大屋に何とかしてくれと言っていたのに。
そして、取り調べの男性警官の物言いも、まるで彼女が祖父母を殺したような、言い草である。だが、ジヨンの口は重く、彼女は収監されてしまうのである。
<だが、今作のラストには微かな希望がある。
ジヨンが釈放された日に、テヒは彼女を出迎え、笑顔で”どこかに行こう!”と言い、飛行機の時刻表が映され、劇中彼女達がガラケーでメールする文字が屡々画面に映るように、大きな”Good Bye"という文字が出て、飛行機が青い大空に飛んでいくのである。
今作は、女性であるチョン・ジェウン監督が、韓国の男性優位且つ高学歴偏重社会をシニカルに描きつつ、仁川の女子校卒の5人の女性の猫を介した絆と厳しい社会の中で懸命に生きる様を描いた作品なのである。>
青春映画の傑作
もう3度目か4度目の鑑賞。公開当時、蓮實重彦が(確か)何度観ても処女作のような映画として、激賞していたのを覚えている。
インチョンの商業高校を卒業した仲良しの女の子5人組は、それぞれ別の道に進みながら、社会や家庭との軋轢を泳がなくてはならなくなる。
コネで証券会社に勤めたヘジュ(イ・ヨウォン)は、女子力を駆使しつつも、なんとかお茶汲み社員からの脱却を図りたいと願い、貧しい暮らしのジヨン(オク・チヨン)は、テキスタイルデザイナーに憧れつつも次第に格差社会の現実に押し潰されていく。
全体の物語はこの2人の対比と対立、しかしそれでも失われない友情を軸に描かれる。そうした2人を結びつけ、またジヨンの力になるのがペ・ドゥナ演じるテヒだ。テヒもまた封建的な家庭に嫌気が差し、我儘なヘジュに呆れつつもジヨンの力となり、やがてジヨンと2人で閉塞した社会からの逃走を企てる。
紹介していない後の2人は双子の姉妹で、イ・ウンシルとイ・ウンジュが演じているのだが、ともすれば抑圧された厳しい社会の物語になりがちな本作を、明るいキャラクターで彩り、失われない友情の核となって活躍する。この2人の面白さは出色だろう。
どの出演者も魅力的で甲乙付け難いし、オク・チョンの寡黙さもいいのだが、やはりペ・ドゥナのスター性と輝きは本作でも遺憾なく発揮されている。
全編を通じて流れるようなキャメラワークは印象的で、地下街を走り抜けるショットの新鮮さや風の強い海沿いを歩くシーンの突然のスローモーション、幾つかのシーンで見られる横移動と奥への移動ショットのオーバーラップなど、滑らかで美しく洗練されたショットが、本作をいつまでも新しい映画として刻んでいる。
タイトルにある猫は出演者の間で何度か行き来することとなり、遷ろう青春のコントラストを象徴する。
また、忘れてはならないのはオープニングからラスト、そして携帯電話によるチャットやダイビングのシーンで駆使されるタイポグラフィのお洒落さ。
キャメラワークと優れたデザイン性に彩られ、青春を闊歩する登場人物達の躍動は、確かにヌーヴェルヴァーグの輝きを現代に蘇らせている。永遠の処女性を備えた傑作と言える。
PS:過去も含め本作はなかなかレンタルDVDが見当たらず、あってもしばしば傷ついてきちんと観れない目に遭う事が何度もあった。配信の事は良くわからないが、借りる際はかなり確認した方がいいかと思う
彼女たちの行き着く先
高校時代に仲の良かった五人組が、卒業後にそれぞれの進路を歩み始めてから少しずつ関係性が変化していく過程を丁寧に描いた青春群像劇。
説明的な描写が少なく、あくまでも繊細な彼女たちの心情にフォーカスを当てた作風にとても好感を持った。
思えば自分は学生時代にどれだけ仲の良かった友人でも、卒業してからは自然と距離が開き今ではほとんど連絡を取ることもない。
もちろん卒業してからもずっと親友で居続けられる人もいるのだろう。
そう考えるとお互いに生活環境や価値観が変わり、気持ちのすれ違いが増えたにも関わらず、理由をつけて集まることの出来る彼女たちの姿は尊いとも感じた。
五人組の中でも大きく心情が変化したのが上昇志向の強いヘジュだろう。
彼女だけが故郷のインチョンを離れソウルの証券会社に就職し、自分を磨くために服や美容に金を費やすことを惜しまない。
彼女はやがて旧友たちの存在を疎ましく思うようになるのだが、真っ向から対立してしまうのがジヨンだ。
彼女は両親を亡くしており、祖父母と共にボロボロのバラックで貧しい生活を送っている。
彼女にはデザイナーとしての素質があるのだが、残念ながら仕事に結びつくことはない。
ヘジュも一見充実した生活を送っているようだが、背伸びをしているだけで心の底から幸福感を味わうことが出来ない。
そしてそんなヘジュの見えっ張りな姿にジヨンは我慢できなくなってしまう。
五人の仲を取り持つ中立的な役割を果たすのがテヒだ。
彼女は実家の家業を手伝う他にボランティア活動をしているが収入はない。
この映画の中では一番献身的なテヒだが、彼女も現状に満足することが出来ずに、ここではないどこかに行きたいと願っていた。
そんな彼女たちの鬱屈した心を映しながら物語は進んでいく。
ある日、五人組の集まりから帰ってきたジヨンはバラックが崩壊している様を目撃する。
彼女は大家に天井が崩れかけていることを訴えていたが、まったく相手にしてもらえなかった。
警察はジヨンに事情聴取をするが、彼女は何も答えない。
警察側は彼女が故意に祖父母を死なせた可能性もあると考えたのだろう、彼女を拘束してしまう。
それでも何も答えないジヨン。
面会に訪れたテヒに、外に出ても自分の居場所がないと答える彼女の姿が痛々しかった。
さてこの映画には子猫が登場するのだが、その存在がとても象徴的に感じた。
金がないためにジヨンが捨て猫を誕生日プレゼントとしてヘジュに贈ったのが始まり。
しかしヘジュはソウルに引っ越しするため、再び子猫はジヨンの元に戻って来る。
そして今度は警察に拘束されたヘジュの代わりにテヒが子猫を引き取る。
しかし彼女にはある計画があった。
ここではないどこかへ行くために、彼女は子猫を仲良し五人組のピリュとオンジュに預ける。
そして彼女は開放されたジヨンを旅に誘うために迎えに行く。
決して明るい作品ではないが、最後は清々しい気持ちになれた。
個人的にはこの映画を10代、20代の多感な時期に観ておきたかった。
おそらく今よりももっと共感する部分が多かっただろう。
映画もどのタイミングで出会うかによって大きく印象が異なる。
久しぶりに若い時のペ・ドゥナを観たが、やはり彼女の存在感は際立っていた。
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