花様年華 : 映画評論・批評
2001年4月1日更新
2022年8月19日よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン、シネマシティほかにてロードショー
ウォン・カーウァイの“媚薬”で大人の純愛に酔う
うっとり……。いや、陶然となりましたって、「欲望の翼」が好きな方なら思うのでは? ウォン・カーウァイの映画とは、結局、音と映像に酔いしれる“媚薬”のようなもの。「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」と、物語よりフィーリング重視に傾いていった彼の映画、この「花様年華」は久々に小粋な短篇を読む思い。仏文学のように秘めやかな官能性に満ちている。
60年代、香港。同じアパートに住む既婚の男女が、互いの伴侶の浮気を気に病むうちに、自分たちも惹かれ合ってしまう。狭い廊下で、雨の階段で、すれちがうたびに触れてはいけない相手への想いはつのる。直裁な描写はまるでないにもかかわらず、いや、だからこそ高まる「恋のムード」(原題)。
どぎまぎするほどタイトなチャイナドレスのマギー・チャン。シルクスーツのトニー・レオン。30年代の上海を思わせるセンスは、上海出身のウォン・カーウァイならでは。欲望と倫理のはざまに悩む男女の姿は、失われた故郷と共に、もはや追憶の中。繰り返し流れる「夢二」のテーマ曲もレトロモダンだ。
抑えに抑えた気持ちは、ラスト、異国に渡って放たれる。どんなふうにかは、見てのお楽しみ……これぞ“秘め事”なんだから。
(田畑裕美)